眼のガン どこに注意すべきか でしょうか?眼のガンの基礎知識 から注意点までを紹介します。
眼のガンの基礎知識
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眼のがんは、乳幼児の眼球の内側に起こる網膜芽細胞腫がもっとも多いです。
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乳幼児の眼が猫の目のように光ったら、網膜芽細胞腫を疑います。
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ほとんどの子どもは自覚症状を訴えないので、お母さんの注意が大切です。
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片眼だけでなく、両眼に同時に起こることがあります。
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遺伝するがんではありますが、それは5~6%にすぎません。
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親が網膜芽細胞腫を経験していると子どもが発病する率はかなり高く、また兄弟姉妹も発病することがあります。
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早期に発見すれば、治療後の5年生存率は90%を超えているので心配しすぎないでください。
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万一「眼球を摘出する場合でも、片眼であれば子どもは大人が思うほど不自由するものではありません。
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治療後も再発防止のため、定期的に検診を受けてください。
網膜芽細胞腫
どこの部位に起こるか
眼でいちばん重要なのは「レンズ=水晶体」だと思いがちですが、水晶体は摘出してもメガネで代用できることが多いです。しかし、眼の奥に広がるカメラのフィルムにあたる「網膜」が破壊されると、回復する手立てはありません。
網膜芽細胞腫は、この大切な部分の細胞ががん化して失明させます。片眼だけに起こる場合と両眼にほぼ同時に起こる場合があります。進行するにしたがって、がんは視神経を侵しながら脳へと進んだり、眼球の外側を覆う強膜から外にまで突き出ることもあります。膨れ上がった眼球が下顎骨のように飛び出す悲惨な姿もかつては見られました。
どういう人に起こるか
1年に100人以上の子どもがこのがんに冒されており、増加傾向にあります。増加の理由は、この病気が「遺伝にかかわっている」ことと、「医療の進歩により、このがんで死亡することが少なくなった」という2点にあります。このがんを起こす遺伝子を持った人が発病しても、治療によって死亡を免れるようになりました。そのため、子孫にその遺伝子が伝えられることが増え、このがんを増加させています。
発病は、1~3歳が中心ですが0歳から5~6歳に多く、遺伝性の場合には兄弟姉妹にも発病する可能性が大きいです。このがんのうち遺伝に原因があるのはわずか5.6パーセントですが、親がこのがんの遺伝素因を持っている場合には、かなりの高率で子どもにこのがんが起こります。その確率などが正確にわかってきたため、「発症の予知」や「早期対策」がとれるようになりました。とはいえ、遺伝性は少数です。「遺伝、遺伝」と思い込まないでください。
自覚症状
このがんの最大の症状は、「子どもの眼が猫の眼のように光る」ことです。網膜にできた白色のがんが拡がるにつれて、眼に入った光がそれに反射して白く光って見えます。
この症状を、「白色瞳孔」や「猫眼症状」と呼んでいます。眼の位置がおかしくなったり(斜視)、充血や眼病などもあります。がんによって眼の内部に炎症が起こったり、眼圧が上昇するための症状です。もっとも眼圧がゆっくりと上昇していくと痛みを感じないケースもありますし、視覚障害が起こっても、乳児は「世の中はこんなもの」と思っているので、自覚症状を訴えないことのほうが多いです。
よってこの病気は、ほとんどがお母さんの発見によるものです。子どもの健康状態を注意深く見守っているお母さんほど早く発見しています。
診断
検眼鏡で眼の内部を直接見る「眼底検査」を行います。簡単に診断がつくこともありますが、網膜が剥がれ(網膜剥離)その下にがんが隠れていると、すぐには診断がつきにくいですし、がんに向かって増殖し、その表面が崩れて白くなっている場合も診断が難しいです。
「白色瞳孔」は先天性白内障や、未熟児網膜症の末期でも見られます。そこで、超音波診断やCTによるX線断層撮影、MRIなどで確かめます。遺伝性の場合は、採血し染色体検査が行われます。いずれの検査も難しいものではありませんが、乳幼児に大人しく検査を受けてもらうことは、とても難しいです。そのため、検査にあたって睡眠剤を投与したり全身麻酔を施すことが多いです。
ここまで治る
1960年代までは眼球摘出が普通でしたが、現在は眼球を残す治療が多く試みられるようになりました。もっとも、がんが大きく眼球全体に拡がっていたり、硝子体中に散らばっている時は、ためらわず眼球の摘出が行われます。白色瞳孔の症状が出ている場合もかなり進行しているので、やはり摘出の対象になります。
進行度は、1~5群に分けた「レーゼ(Reese)の分類」によることが多いです。2群までは摘出せずに完治できますが、3群では治せても視力障害が残ることが多くなります。4群以上では、眼球の摘出が必要になります。両眼性の場合は、片眼の進行が遅れていることが多く、片眼は摘出しても片眼は保存治療することが試みられています。
眼球を摘出しない治療では、比較的大きい腫瘍の場合は放射線治療が試みられますが副作用があります。小さい腫瘍では、光のエネルギー(アルゴン・レーザー光線)でがんを叩く治療法(光凝固)や冷凍凝固で治療することが多いです。レーザーのスポット光線を、入墨をするようにがんの周囲から中心部に向かって打ち込んでいきます。直径5ミリのがん全体に打ち終わるには、30分ほどかかります。小さながんであれば光凝固だけで治ります。
治療法が進み、網膜芽細胞腫は死なないがんになりましたが、発見が遅れると、眼球摘出し失明することになります。生存率は90パーセントを超えていますが、失明を防ぐ意味で早期発見、早期治療という鉄則は、このがんではことさら重要です。このがんの男女差はほとんどありません。
やむなく眼球摘出した場合は、義眼を入れます。子どもは成長するので、成人までには2~3回の交換が必要です。「失明」と聞くと、大人は子どもが大変な不幸に陥ったと衝撃を受けますが、幼いうちに片眼を失った場合は、その片眼の世界がごくあたりまえのことと受け止めています。
病院で「おめめ、とろうね」と医師が語りかけると、子どもはごく自然に義眼を取り出してくれます。周囲が深刻な顔をしないことが大切です。
このがんは、再発や片眼の場合にはもう一方の眼に発症するおそれがあるため、追跡検診を欠かさないようにしてください。遺伝性の場合もあるので、発病していない兄弟や姉妹も一緒に検診を受けなければなりません。