乳がん「大きさよりリンパ節」

乳がんの現状

  1. 乳がんは、この20~30年で発生数は3倍、発生率は2倍に増加した。
  2. 閉経後の高齢者の乳がんは、閉経前のがんよりやや生存率が低い。
  3. 自分で発見しやすいがんなので、日ごろから自分の乳房の状態をは把握しておく。
  4. 乳房のしこりは、60歳以上ではがん、25五歳以下では、良性の線維腺腫が多い。更年期前後には、乳腺症や嚢腫が多い。
  5. もっとも発生しやすいのは、乳房の外側上方である。
  6. 治療後の10年生存率は、進行がんも含めて約7割であり、他のがんに比べて治りやすい。
  7. 治療成績は、がんの大きさよりもリンパ節転移のあるなしが問題なので、と悲観する必要はない。
  8. 男性にも少ないながら乳がんがある。
  9. とくに高齢者は、肥満を防止することが乳がんの予防になる。
  10. 乳がんの経験者は、反対側の乳房にもがんが発生することが多いので、定期的な検診を続けること。

乳がんのできる場所

乳房は、乳腺と脂肪、これらを支える支持組織の3つの部分によって構成されている。乳汁を作り分泌するのが乳腺で、乳房には乳腺が乳頭を中心に15~20の葉を放射状に並べたように構成されている。
その間を埋めて乳房のふくらみを作っているのが脂肪組織である。
乳がんは、乳腺にできるがんである。がんがおこる場所を乳房の正面からみると、乳房の外側上方が約5割で、あと、内側の上方、中央(乳頭、乳輪の下)、外側の下方、内側の下方、全体におよぶものの順になっている。

できやすい人

乳がんは、ここ20年ほどの間に急増している。大きさの大小にかかわりなく、転移の早いものもあり、早期発見が治療のきめてである。また、発病のピークは閉経前の40歳代後半が中心だが、最近は閉経後の乳がんが増えている。

乳がんの発生は遺伝的な要素があるといわれており、母親が乳がんだった場合に娘が発病する率は通常の2倍。しかしもっとも関係が深いのは、生活環境である。脂肪(とくに動物性脂肪)の摂取量が多い国ほど、乳がんの発生率は高い。

個人別でも動物性脂肪の摂取量の増加に応じて、乳がんの発生率も増えている。乳がんが独身者や出産経験のない人、子どもの数の少ない人、高齢出産者に多いのは、このがんが女性ホルモンと関係が深いためである。

妊娠・出産・授乳は、長期間にわたって生理(月経)を止め、女性ホルモンの分泌期間を短くすると同時に乳腺細胞を分化させる。その結果、女性ホルモンの影響でおこる乳がんの発生率を下げる。

しかし、現代の女性は初潮が早く閉経が高年齢化しているため女性ホルモンの分泌期間が長く、それだけ乳がんの発生を増やしていると考えられている。

肥満との関係もある。標準体重の人と比べ、20パーセント以上の肥満者では30~50歳代で、1,3倍も乳がんの発生率が高い。60歳以上になると、その率は2.5倍にはねあがる。

これもホルモンと関係がある。副腎から分泌されるアンドロゲンという男性ホルモンの一部は、皮下脂肪のなかで女性ホルモンに変化する。そのため、肥満者の血液中の女性ホルモンの濃度は高くなるのである。
閉経期を迎えた60歳以上の女性は、卵巣からの女性ホルモンの分泌が止まるが、肥満があると女性ホルモン濃度が下がらず、乳がんの発生率をはねあげてしまうのである。

自覚症状

しこりの自己発見は簡単にできるので、自分の乳房の状態を定期的にチェックすることである。乳房の状態は生理周期にともなって変化するので、そのときどきの正常な状態をつかんでおく。

そうすれば、1センチ以下のがんでも自分で発見できる。乳房にクリクリしたしこりや硬いゴリッとした感触があれば、乳がんを疑う。
がん(cancer)の語源は「蟹」だが、これはは、乳房に硬いがんができて広がったさまがカニの姿に似ていたからである。
皮膚のひきつれ、エクボのような「くぼみ」、乳首のただれで発見されることも多い。
痛みが出たときには、すでにしこりができているのがふつうである。
もっとも若い人の乳房のしこりは線維腺腫が多く、中年期の人でも乳腺症や嚢胞によるものが多いので、むやみな不安を抱くより、診察を受けることだ。発見さえ早ければ、これはど治りやすいがんはない。

診断

専門医は、指でしこりにふれるだけで約70パーセントはがんと診断がつくが、確実な方法として「マンモグラフィ(乳房Ⅹ線撮影)」による検査がある。

レーガン大統領のナンシー夫人も、これによって乳がんを発見した。上下、左右から乳房を圧迫してレントゲン写真を2枚撮影する。
軟組織でできている乳房は通常のレントゲン撮影でほ内部のようすを鮮明にはとらえにくいが、マンモグラフィなら微妙な変化( 石灰化など) まで写すことかた士しりができる。

疑いのある塊が発見されると、その部分をねらって超音波診断をおこなう。ここまでの段階で95パーセント、診断がつく。最終確認が、塊に針をさして採った細胞を顕微鏡でみる細胞診や、しこりの一部をとる組織生検である。

サーモグラフィという乳房の温度分布を赤外線でとらえる診断装置も使われる。がんは、正常部分より温度が高いので、温度差からがんを突き止める。
また、乳管に造影剤(胃検査のバリウムにあたる) を注入してレソトゲソ写真を撮ることやCT 、MRIの検査をすることもある。

がん治療の現状

治療成績はがんのしこりの「大きさ」よりも、「リンパ節転移のあるなし」と「転移したリンパ節の数」に左右される。乳がん全体の10年生存率は、転移のないものでは89パーセントだが、転移があると52パーセントと大きく減少してしまう。

リンパ節転移の数が多いほど10年生存率は低下する。それに対して、がんが「大きく」ても転移がなければ10年生存率はかなり高い。
乳がんの進行は、タイプによって若干異なる。乳がんのタイプは、周囲の組織を圧迫して波紋のように広がっていく「限局型」、警込むように周囲を侵していく「浸潤型」(「硬がん」ともいう)、それらの「中間型」、の3つに分けられる。

このなかでどちらかといえは転移しやすいのが「浸潤型」で、治療成績もいくぶん低い傾向にある。閉経後の乳がんにこの硬がんが多いため、悪性度蓋いといわれるゆえん。

だがその「差」は問題にするほどのものではない。やはり、転移がおこる前に発見できるかどうかが治療成績を左右する。浸潤型は脂肪の間に木片があるように硬く触れるのに対し、限局型ほ硬がんよりやわらかいしこりが触れるが、

こうした区別は素人にほむずかしい。乳がんが進行すると、乳房のなかで離れたところに新しいがんができることがあるが、なんといっても困るのは転移である。

血管ルートの転移では骨への飛び火がもっとも多く、ついで肺や肝臓、脳などへの転移がつづく。乳がんだから乳房だけの病気と思ったら大まちがいで、進行するにしたがって骨や脳までもがんに侵されていく。

乳がんは「転移の多彩さが特徴」といわれるほどである。治療は、手術による「乳房切除」が中心で、放射線療法や化学療法、ホルモン療法などがあわせておこなわれる。

もっとも最近は、ごく早期の小さいがんが発見されるようになったこともあり、小さな切除ですむ場合も出てきている。乳がんの手術には、次の3種がある。

乳がん手術後の最大の問題は、女の証である乳房を取り戻したいという願望である。補正用パットも各種市販されているが、注目を集めているのが乳房再建術である。
シリコンなどを胸の筋肉下に挿入したり、背中や腹部の筋肉を胸に移植して乳房をつくる。だが、筋肉の移植手術はかなり大がかりになるし、期待が大きいだけに手術結果に失望するケースも少なくない。
このため、再建手術を受けるときはほ、事前に手術方法や手術後の回復程度などを医師と十分に話し合っておく。また、がんの再発は3年以内が多いが、5年以後というケースもあるので、手術後の定期検診を欠かさないことだ。

乳がん改善例