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5分間セロトニントレーニング

脳を動かす冷静な覚醒

私たちの身体は、身体の内外で感じたことをすべて情報としていったん脳に集めます。脳はその情報を判断し、それに対してどういう行動(アクション)をとるのか、身体の各部署に情報を伝達しています。こうした「情報の通り道」になっているのが、神経です。

神経は神経細胞の集合ですが、細胞同士はぴったりとつながっているわけではなく、ほんの少しだけ間隔を空けながら連携しています。その神経細胞同士の隙間を移動し、情報を伝えているのが、「神経伝達物質」です。

例えるなら神経細胞はリレーの走者、神経伝達物質はバトンのようなものです。神経細胞には、「軸索」と「樹状突起」と呼ばれる2種類の突起があります。この突起が互いに手を伸ばし合うようにして神経細胞は「神経」を構成しています。
これらの突起は、それぞれ働きが違います。樹状突起は情報の取り込み口、軸索は情報の出力口です。

つまり、樹状突起から情報を受け取った神経細胞は、インパルスと呼ばれる電気信号を使い軸索の末端までその情報を伝え、そして軸索の先端にインパルスが到達すると、そこから神経伝達物質が放出され、次の神経に情報が伝わるのです。

この神経細胞同士の接合部分を「シナプス」といいます。これが、一般的な神経の構造と働きです。普通の神経は、1つの情報に対して1つの信号を発し、次の情報が来るまで自分からは何もしません。

ところが、セロトニン神経は、他の神経から刺激がなくても、規則的にインパルスを出すという通常の神経にはない性質を持っています。そのインパルスは、他の神経からの刺激とは関係なく、自立的に一定のリズムで発せられ続けます。そんな他の神経の影響を受けないセロトニン神経の活動に、規則性を与えているのが、睡眠と覚醒のサイクルです。

セロトニン 神経は、目覚めている間、つまり脳が覚醒している間は、1秒間に2~3回の間隔でインパルスを出し続けています。
しかし眠ると、その頻度はまばらでグッと少なくなります。さらに、レム睡眠という深い眠りに入ると、インパルスはまったく出なくなります。そして、朝になり再び目覚めると、またもとの1秒間に2~3回という規則的なインパルスに戻るのです。

セロトニン神経は、脳幹の縫線核という部分から脳全体に軸索を張りめぐらせています。そして、起きている間はずっと、一定の頻度でインパルスを送り続けます。そのため、セロトニン神経からは、起きている間はずっと一定量のセロトニンが放出され続け、脳内のセロトニン濃度が一定に保たれるということになります。

セロトニンは、脳に「クールな覚醒(静かな覚醒)」をもたらすので、セロトニンがある程度出続けている間、脳は覚醒し続けます。そして眠るとインパルスの頻度がまばらになり、それに伴って脳内のセロトニン量が減り、覚醒状態も失われるというわけです。

こうしたセロトニン神経の働きは、ちょうど車のエンジンのアイドリングとよく似ています。車はエンジンをかけると、低速で規則的なエンジン回転が始まります。脳も目覚めると、セロトニン神経が低速度で規則的なインパルスを出し続けます。

私たちは、よく寝起きがいい日と悪い日がありますが、実はこの「寝起きがいい」という状態は、覚醒してすぐから、セロトニン神経のインパルスが規則正しく発せられている状態のことなのです。目覚めとともに、脳がセロトニン神経の働きによって、クールな覚醒状態にスムーズに移行した状態、それが私たちが感じる「爽快な目覚め」です。

反対に目覚めが悪いというのは、セロトニン神経の働きが低下し、インパルスが規則的に出ていない状態です。これは、エンジンでいえば、アイドリングが安定せず、すぐにエンストしてしまうような状態です。アイドリングが安定しなければ、快適なドライブができないように、脳もセロトニン神経のインパルスが安定しないときちんと働くことはできません。そうならかいためにも、普段からセロトニン神経を鍛え、活性化させておくことが大切なのです。

心身を健康にする「5つの働き」とは

セロトニン神経の役割というと、「うつに効く物質」にすぐに結びつけてしまう人がいますが、それは大きな間違いです。また、セロトニン神経が活性化すると、クールな覚醒や平常心がもたらされると言いましたが、セロトニン神経の機能は、決してそれだけではありません。

ここでセロトニン神経の働きをまとめておきましょう。セロトニン神経には、全部で5つの機能があります。

  1. クールな覚醒
  2. 平常心の維持
  3. 交感神経の適度な興奮
  4. 痛みの軽減
  5. よい姿勢の維持

1つ目の「クールな覚醒」は、大脳皮質の活動を適度に抑えながら、その働きを高いレベルで維持するという、人間の脳にとって理想的な覚醒状態をもたらす働きです。すでに触れましたが、この働きは、脳の中のセロトニン濃度が一定のレベル以上に保たれることによってもたらされます。

2つ日の「平常心の維持」というのは、心の状態を整える機能です。セロトニン神経は、ノルアドレナリン神経とドーパミン神経という、ときには暴走してしまう2つの神経に働きかけ、暴走を抑え適度な興奮状態にとどめることができます。
そのため、セロトニン神経がきちんと働いていれば、精神的なストレスのコントロールがしやすくなり、多少のストレスがあっても、それに負けてイライラしたり、キレやすくなったりすることもなければ、逆に嬉しいことがあっても、はしゃぎすぎたり舞い上がってしまうこともなくなります。もちろんつらいことはつらいし、嬉しいことは嬉しいと感じているのですが、そうした自分を冷静にコントロールできている状態が「平常心」です。

こうした平常心の大切さは、アスリートの人たちを見ていると痛感させられます。スポーツにはミスがつきものです。
たとえば野球のピッチャーが配球を間違えてヒットを打たれたとしましょう。そこで動揺してしまったら、その後、いい球を投げることは難しくなってしまいます。でも、失敗は失敗と理解して、心を落ち着かせることができれば、自分の投球を取り戻し、失敗を挽回することができます。冷静な判断が重要です。

平常心というのは、適度な緊張をもって、その人の能力を最も発揮させることができる心の状態なのです。

3つ目は、「交感神経の適度な興奮」です。私たちの身体は「交感神経」と「副交感神経」という2つの自律した神経の働きによって支えられています。自律神経というのは、私たちの意志とは関係なく働いてくれる神経です。

たとえば、私たちの身体はものを食べると、消化器官が勝手に消化し、勝手に栄養を吸収してくれます。私たちはこれを意識的に行うことも、意識的に止めることもできません。こうした意識的にコントロールできない働きを行ってくれているのが自律神経です。

この自律神経も、セロトニン神経と同じように睡眠と覚醒のサイクルに合わせて変動します。覚醒しているときは交感神経が優位に働き、眠ると副交感神経が優位に働くようになるのです。副交感神経から交感神経へのスイッチングには、セロトニン神経の規則的なインパルスが重要な働きをします。

そのため、セロトニン神経が弱まりインパルスに乱れが出ると、自律神経のスイッチングにも乱れが生じ、自律神経失調症になってしまうのです。そうなると、めまいや立ちくらみが生じたり、体の一部が震えるなどの症状が出ることもあります。
自律神経失調症に分類される13の症状と病気

ここで注目すべきところは、セロトニンが交感神経を「適度に」興奮させるという点です。交感神経が非常に強く活性化した状態というのは、簡単に言うと「ストレス状態」です。
たとえば、激しい運動をしているときや精神的に興奮したとき、私たちは心拍数が1分間に120~180ぐらいにまで上昇します。いわゆるドキドキした状態です。これが、交感神経が強く活性化した状態ですが、心身にストレスが加わった状態であることがその心拍数から充分におわかりいただけると思います。
では、適度な興奮状態とはどのようなものなのでしょう。そのよい例が、スッキリとした朝の目覚めの状態です。寝ているとき、私たちの心拍数は1分間に50回程度しかありません。

それが目覚めると、70~80回ぐらいまで上昇します。明らかに交感神経が興奮しているのですが、それは運動したときのような激しい興奮ではありません。穏やかだけど、活動する準備の整った状態、それが交感神経の「適度」な興奮です。

4つ目の機能は「痛みの軽減」です。実はセロトニンというのは、脳内で鎮痛剤の役目を果たすのです。普段私たちは痛みを、身体のさまざまな部分で感じているように思っていますが、実は痛みを感じているのは「脳」なのです。

歯の治療をするときなど痛みをなくすために麻酔薬が使われますが、あれは、その部分の神経を一時的に薬で麻痺させて、脳に痛みの情報が伝わらないようにするので痛みが感じられなくなるのです。
でも、セロトニン神経を活性化させると痛みが軽減されるのは、神経が麻痺するからではありません。

そのため、痛みがあることは明確に認知されます。痛みはあるのですが、それほどつらくは感じないですむ、というのがセロトニン神経による痛みの軽減の特徴です。こうしたことが起きるのは、セロトニンを活性化させることによって「痛みの伝導」を抑えることができるからだと考えられます。

つまり、ストレスによる神経の伝導をセロトニンが抑制してくれるために、一定の痛みに対しても、それほどつらさを感じなくなるというわけです。そのため、身体的ストレスのコントロールがずっとしやすくなるのです。

大したケガでもないのにひどく痛みを感じたり、自分は他の人より痛みに弱いのではないかと思う人は、セロトニン神経が弱っている可能性があります。普段からセロトニン神経の活性化を心がけるようにしてください。

最後の5つ目の機能は、「よい姿勢の維持」ができるようになるということです。セロトニン神経は、「抗重力筋」につながる運動神経に直接、軸索を伸ばし刺激を与えています。抗重力筋というのは、姿勢を維持するのに重要な、文字通り重力に逆らって働く筋肉です。

首筋、背骨の周りを支える筋肉や下肢の筋肉、そしてまぶたや顔の筋肉も抗重力筋に含まれます。しかん抗重力筋は、寝ているときは弛緩して休み、目覚めると持続的に収縮を続け、姿勢を整えるとともに引き締まった表情をつくり出します。

セロトニン神経が弱ると、抗重力筋の緊張も弱まるので、きちんとした姿勢を維持するのがつらく感じられ、ついついゴロゴロしてしまうことが多くなります。また、表情も目元に力がなくなり、何となくダラッとした印象になってしまいます。

このように、セロトニン神経の働きは、私たちの心身に多くの影響を及ぼします。セロトニン神経が活性化していれば、頭がクリアになり、元気がみなぎり、心は安定し、ストレスや痛みに強く、姿勢も表情も引き締まるのですから、いいことずくめです。
反対にセロトニン神経が弱ると、これとまったく逆の症状が表れるので、仕事はもちろん生活のクオリティまで下がってしまいます。その上、心の病気にもなりやすくたたなるのですから、まさに弱り目に崇り目です。

セロトニン神経の活性は、抗ストレス能力の1つですが、単にストレスに強くなるだけではなく、あなたの人生のクオリティを上げることにもつながるものなので、ぜひ生活の中に取り入れていただきたいと思います。

セロトニン神経とストレスの関係性

セロトニン神経は、それ自体は直接ストレスの影響は受けません。ストレスがあろうがなかろうが、関係なく一定のリズムでインパルスを送り続けます。しかし、セロトニン神経の「機能」はストレスによって低下してしまうのです。

なぜこのようなことが起こりうるのでしょうか。セロトニン神経は日々の食事から吸収した「トリプトファン」を材料にセロトニンを合成します。そして、軸索の末端(神経終末)から放出し、その放出されたセロトニンは、受け手の神経細胞にある「セロトニン受容体」に結合し、受け手の神経を抑圧したり興奮させたりします。

このとき、セロトニン受容体に結合するセロトニンの量が多ければ影響は強く、少なければ弱く表れます。セロトニンはインパルスの頻度に合わせて放出されるので、インパルスの頻度が高ければ、分泌されるセロトニンの量は多く、頻度が低ければセロトニンの畳も少なくなります。

では放出されたセロトニンの中で、セロトニン受容体に結合しなかったものはどうなるのでしょう。実は、あまったセロトニンは、「セロトニントランスポーター」という運撒役によって、もとのセロトニン神経の末端にある再取り込み口から吸収され、リサイクルされるのです。

一定の頻度でセロトニンを放出し続けるセロトニン神経には、自分の働きを自分で点検し、ちょうどよい状態に整える「自己点検回路」というものがあります。セロトニン神経の軸索は、途中から何本にも枝分かれしてさまざまな標的神経につながっているのですが、

その中の1本がぐるりと細胞に戻り、「自己受容体」につながっています。ここで自分が出しているセロトニンの量を把撞し、多すぎれば抑制し、少なければ多く出すようになっているのです。さて、ストレスはこうした構造のどこに影響を与えるのかというと、セロトニンの分泌土そのものに作用するのです。

ストレスを受けるとストレス中枢である視床下部・室傍核に刺激を与えます。その結果、縫線核を経由してセロトニン神経のインパルス発生を低下させてしまい、セロトニン量そのものを減少させてしまうのです。
つまり、ストレスが溜まり、ストレス経路が動き出し、ストレス中枢の室傍核が刺激されると、それによってセロトニンの分泌そのものが阻害され、慢性的なセロトニン不足が生じ、セロトニン神経の機能が低下してしまう、ということなのです。

なぜセロトニンが不足するとうつ病になるのか

慢性的なセロトニン不足が続くと、標的神経にも変化が表れます。不足しているセロトニンをもっと多く受け取るために、セロトニン受容体の数を増やしてしまうのです。しかし、いくら受容体を増やしてもセロトニンの量がもともと不足しているのです。残念ながら効果は上がりません。

こうして脳内のセロトニン量が慢性的に不足することによって、脳の活動が全体的に低下し、その結果「うつ病」を引き起こしてしまうのです。
うつ病と脳内セロトニン濃度の低下が関係していることは、うつ病で自殺した人の解剖結果からも明らかになっています。誤解がないように言っておきますが、すべてのうつ病がセロトニンの不足によって生じるわけではありません。
うつ病の原因はさまざまです。うつ病でよく見られる9つの症状

うつ病には、もともとの遺伝子の問題からセロトニン不足が生じて発症する先天的なうつ病と、生活習慣などからセロトニン不足が生じて発症する後天的なうつ病の、2種頬があります。
先天的なものは家系的に発症者が多かったり、うつ状態と操状態が繰り返されるなど、特有の症状が見られます。

セロトニン不足によって生じるものは、最近増加傾向にある「心の風邪」といわれるような、比較的軽いうつ病です。現在の日本で、こうした軽いうつ病を患っている人の数は、約300万人といわれています。潜在的にはもう少し多いのかもしれません。

現在の日本の人口は約1億2000万人なので、100人いれば2人ぐらいはうつ病の人がいるということになります。でも、人によっては、600万人という数字を掲げている人もいるぐらいですから、実際にはもっと多いのかもしれません。でも、
これは本当に最近のことです。50年前はどうだったかというと、いなかったとは言いませんが、これほど多くの人が発症することなどありませんでした。それこそ、戦時中などは、衣・食・住あらゆる面においてストレスはかなり大きかったはずですが、それでもうつ病が問題になったことなど、まずありませんでした。

今、増加しているうつ病は、不規則な生活やコンピューター浸けの生活など、現代生活特有の問題に起因しています。つまり、うつ病は生活習慣病と考えられるのです。しかし、生活習慣病であるということは、生活習慣を改善しさえすれば病気はちゃんと回復するということでもあるのです。
どのように治っていくのか

現在、うつ病の治療によく用いられる薬に、SSRIというものがあります。
セロトニン濃度を高めるSSRI – うつ病

SSRIというのは、「選択的セロトニン再取り込み阻害剤」といって、セロトニントランスポーターの働きを抑える薬です。先に受容体に結合しなかったセロトニンは、セロトニントランスポーターによって再取り込み口に運ばれると述べましたが、実はセロトニン神経の末端の他にもセロトニントランスポーターは存在しています。

それは、脳の血管内皮です。この血管にあるセロトニントランスポーターによって、余分なセロトニンは血管の中に取り込まれ、最終的には尿として排泄されてしまいます。SSRIを用いると、セロトニンの再取り込みと同時に脳血管への流出が抑えられるので、受容体と結合しなかったセロトニンは、軸索の先端と標的神経の間の空間に漂い続けることになります。

なぜこれによってうつ病の症状が改善するのかというと、隙間にとどまるセロトニンが増えることで、脳内のセロトニン濃度が高くなるからです。でも、これは見せかけの改善でしかありません。なぜなら、セロトニンを放出するインパルスの頻度は、低いままだからです。

うつ病を根本的に改善するためには、セロトニン神経のインパルスの頻度を高め、セロトニンの放出量そのものを増やすことが必要です。そのためにはセロトニン神経を活性化させるよう生活習慣を改善するとともに、リズム運動を積極的に行うことが必要なのです。もちろんうつ病治療には、それぞれの患者の状態によって薬の処方が必要なケースもあるので専門医の治療を受けることが必要ですが、その場合でも生活習慣の改善を併用することはよい結果につながります。
そして、うつ病自体が軽いものであれば、薬に頼らなくても、生活習慣の改善とリズム運動だけで充分回復させることができると考えています。
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セロトニン神経を鍛えることで「遺伝子」も変わる

セロトニン神経を「鍛える」といっても、いったい何ができるのでしょうか。理想的なのは、標的神経の受容体の数が少なく、そこに充分な量のセロトニンが結合し、刺激が強く伝わるという状態です。「鍛える」といって一番イメージしやすいのは、筋肉を鍛える場合でしょう。

毎日、筋肉に適度な負荷を与える運動を続けると、筋肉は見た目でもわかるほど太くたくましいものに変化します。これは日々のトレーニングによって、筋肉の構造自体が変化した結果です。つまり、「鍛える」とは「構造を変える」ということなのです。

でも、神経の構造を変えることなどできるのか、と疑問を持たれた方も多いのではないでしょうか。神経の構造を変えられるのはセロトニン神経など、限られた神経だけなのです。そういう意味でも、セロトニン神経は特殊な神経といえるでしょう。

セロトニン神経が構造を変えることができるのは、「自己点検」の回路を持っているからだと考えられます。構造を変化させるうえで重要なのが、自己点検回路の中の「自己受容体」です。セロトニン神経は、この自己受容体に結合するセロトニンの量を感知することで、「そんなに出さなくていいな」とか「もっと出さなきや」という判断をし、インパルスの頻度を調節しています。

この回路があるからこそ、セロトニン神経はドーパミン神経やノルアドレナリン神経のように暴走することがないのです。でも暴走しないということは、別の見方をすれば、せっかくセロトニンの量を増やそうと刺激を与えても、簡単には増やすことができないということです。増えると自己抑制機能が働いてしまい、すぐにまた放出量を少なくしてしまうからです。

ではどうすればいいのでしょう。すぐに増えなくても、多く出すように働きかけ続けるのです。筋肉を鍛える場合も、すぐには変化しません。毎日根気よくトレーニングを続けることで、筋肉は構造を変えていきます。セロトニン神経の場合も同じです。

すぐには変化してくれませんが、毎日セロトニン神経を活性化させ続けていると、構造自体が変化し、セロトニンの放出量が多くなるのです。どのように構造が変化するのかというと、セロトニン神経を活性化させ続けていると、まず自己受容体の数がだんだんと減っていくのです。

自己受容体の数が減ると、セロトニン神経が感知するセロトニン量が減るので、抑制が弱まります。こうして抑制機能が弱まることで、セロトニンの放出量そのものが増えていくのです。実は、この自己受容体というのは、タンパク質でできているのですが、タンパク質をつくる命令は、遺伝子から出ています。つまり、自己受容体の数が減るということは、それをつくらせている「遺伝子が変わる」ということなのです。

すべては最初の「3ヶ月」で決まる

同じ状況を繰り返し続けることで、遺伝子のスイッチが切り換わり、セロトニン神経の構造が変化します。では、どのぐらいの期間やり続ければ変化するのでしょう。3ヶ月間、セロトニンを増やすための「セロトニントレーニング」を続けると、セロトニン神経の構造が変化し始めます。

そして6ヶ月ほどたつと、かなりよい状態にまで変化します。しかし、トレーニングを繰り返すことによって遺伝子構造が変わるということは、セロトニン神経を弱らせるような生活習慣を続けてしまえば、悪い方に構造が変化してしまうということでもあります。この場合も、やはり3ヶ月ほどで弱った状態が固定されていきます。ですから、セロトニン神経を鍛えるトレーニングは、よくなったからと、そこで終わりにするのではなく、生活の一部としてずっと続けていくことが効果的なのです。
でもまずは3ヶ月間を目指してください。それだけでこれまでの生活を確実によくできるのです。そのためにも最初の3ヶ月間だけは、休まず頑張ってトレーニングを続けることが何よりも大切です。なぜなら、最初の3ヶ月感を続けることが、実は最も難しいことだからです。

トレーニングを始めた当初は、必ず少し調子が悪くなります。なぜせっかくよくなるための努力をしているのに調子が悪くなるのか、きちんと知っておかないと、トレーニングをしたために調子が悪くなったのだと思い、トレーニングを続けるのが嫌になってしまいます。
トレーニングを始めて症状が悪化しても、それはセロトニンがちゃんと増え始めた証拠だと思ってください。なぜならその不調は、セロトニンが増えたため、自己点検回路が働き、セロトニンが抑制されたことによって生じたものだからです。

もちろん、この不調は一時的なものです。そのままトレーニングを続けていれば、今度は自己受容体が減少し、恒常的にセロトニン放出量が増えていきます。そうなれば、それまでの不調は消え、心身ともに元気が出てきます。最初の3ヶ月間さえ続けることができれば、後はどんどん調子がよくなっていくのを実感できるようになるでしょう。

「冬季うつ病」の治療法とは

ここからはいよいよセロトニン神経を活性化させるための具体的な方法をご紹介していきましょう。セロトニン神経を活性化させるものは、主に2つあります。1つは「太陽の光」、もう1つは「リズム運動」です。

まずは、「太陽の光」の方からお話ししましょう。みなさんは「冬季うつ病」という病気をご存じでしょうか?文字通り冬になると発病するうつ病なのですが、これは北欧など、冬に極端に日照時間が短くなる地域に多く見られる病気です。

この治療には、冬でも比較的日照時間が長く暖かな地域への転地療法が効果的です。

たとえば、北欧で冬季うつ病になった人を、南イタリアの太陽が燦々と輝くところへ連れていくのです。すると、それだけでこの病気は回復してしまいます。それは、この病気の原因が「日照不足」にあるからです。私たちの生命活動には、私たちが思っている以上に太陽光が密接に関係しています。

たとえば、私たちはものを見るとき、光を必要とします。「見る」ということは、光によって媒介される映像が網膜から入り、視神経を経て、最終的には大脳皮質の視覚野で映像として認識されるということだからで影響を与えています。

私たちの身体は地球の自転に合わせ、約24時間サイクルで変動する「生体時計」を持っていますが、この生体夏時計のズレを修正してくれているのも太陽の光です。
脳は、日没とともに、自律神経を副交感神経優位に切り換え、生体の活動レベルを下げ、エネルギーを蓄積する冬ように司令を出します。そして、太陽の光を受けると、自律神経を交感神経優位に切り換え、活動レベルを上げるように司令を出します。

海外旅行へ行くと、時差ボケに苦しむ人が少なくありませんが、これは生す。網膜から入ってきた「光」の信号は、「見る」以外にも、脳のさまざまなところに体時計の周期と、光による調節作用の間に生じた大きな「ギャップ」によって起きる不調です。

同じように、網膜から入った光信号の影響を直接受けるのが、セロトニン神経です。セロトニン神経は、覚醒と睡眠によってインパルスの頻度を変えますが、このスイッチングに影響を与えているのが光信号なのです。網膜から入った太陽の光が信号として達することによって、セロトニン神経は興奮し、インパルスの頻度を上げ、脳の覚醒状態を演出する、ということです。おもしろいのが、このようにセロトニン神経を興奮させる光信号は、「太陽の光」でなければダメだということです。

最近は、冬季うつ病の治療には、必ずしも太陽の光でなくても、2500~3500ルクスという太陽光と同じ程度の強さの光であれば、その効果が確認されています。
ですから、正しくは、「太陽の光のような強い光」がセロトニンを興奮させるということです。冬になると、どうも気持ちが落ち込みやすいという人や、雨や曇りが続くと気分がうつうつとしてくるという人は多いと思いますが、これは日照不足からセロトニン神経の機能が低下し、その結果、脳内のセロトニン濃度が低くなったことによって軽いうつ状態が生じているのです。
ちなみにうつ病には必ずきっかけとなる出来事があります。
うつ病になったきっかけ(私の体験談)

規則正しい生活とは

「規則正しい生活」といったとき、多くの人は自分の生活のリズムを、時計に合わせようとしていますが、実は、時間そのものに意味はありません。しかし、私たちは、規則正しい生活が、心身によいことを知っています。

うつ病の治療でも、必ず「規則正しい生活をしてくださいね」と医師は言います。そして朝7時に起きて、8時に朝食をとって、12時に昼食をとって、午後5時には仕事を終えて、夜7時には夕食をとって、11時には寝る、という生活を送るようになります。しかし、医師は決してそういうつもりで、「規則正しい生活」と言っているわけではないと思います。

確かに時間は目安になりますが、時間そのものに意味があるわけではありません。大切なのは脳に刺激を与える「太陽の光」なのです。私たち人間は、それこそ何百万年という長い年月をかけて進化し、身体をつくり上げてきました。身体に備わっているさまざまな機能も、それを動かすシステムも、その長い年月の間につくり上げられたものです。

そして、自律神経の交替サイクルや、脳の覚醒と睡眠のサイクルといった生存にとても重要な機能のスイッチングが光信号によってなされているというのは、人間が長い間、太陽のサイクルを自らの生活のサイクルにしてきたことを意味しています。

事実、ほんの百年ほど前まで、ほとんどの人は太陽とともに起き、太陽が沈むと休むという生活をずっと続けてきていました。不規則な生活や、昼夜逆転の生活が可能になったのは、電灯の普及によって、「夜でも明るい世界」が生まれてからなのです。それまではどんなに仕事が忙しくても、夜になったら暗くなってしまうのですから仕事などできません。寝るしかなかったのです。

でも今は、人工的な明かりによって、しようと思えば仕事ができてしまいます。私たちを取り巻く環境は変わっても、長い年月をかけてつくられた身体のシステムは簡単には変わりません。私たちの身体は、今も太陽の光とともに活動して、太陽が沈んだら休むことを前提に、すべての機能が整っています。

ですから、うつ病やキレやすいといった現代社会ならではの生活習慣病の改善のために規則正しい生活を心がける場合は、太陽の光を取り入れることを第一に心がけることが大切なのです。まず、朝起きたら、カーテンや雨戸を開けて、朝の日の光を部屋いっぱいに取り込みましょう。通勤・通学をしている人なら、なるべく日の当たる場所を選んで歩く、通勤の必要のない人は、太陽の光を感じながらウォーキングやジョギングをするといいでしょう。

セロトニンは朝につくられるので、朝の太陽光を浴びることが、セロトニン活性には最も効果的なのです。太陽光を浴びる時間は短時間で充分です。あまり長時間光刺激を受けてしまうと、かえってセロトニン神経の自己抑制機能が働いてしまうからです。

最も効果的にセロトニンを活性化させるのは、太陽の光を30分程度浴びることです。そして、いくら光刺激が必要だといっても、直接太陽を見るようなことは、網膜を傷めてしまうので絶村にしないように気をつけてください。太陽の光の降り注ぐ場所で景色を眺めるだけで、セロトニン神経は充分に活性化します。朝、部屋の中に陽光をたっぷり取り込み、家の近くを少し散歩する。
または、通勤通学のときになるべく日の当たる場所を選んで座ったり歩いたりする。特別なことをしなくてもそれだけで、太陽の恩恵は充分に得られるので、ぜひ毎日の生活に取れ入れてください。

セロトニンは不眠症も解決する

私たちの脳は自前の「睡眠薬」を持っていて、夜になるとちゃんとその睡眠薬を出すことで健やかな眠りについています。その睡眠薬というのが、脳の中の松果体という部分から分泌される「メラトニン」というホルモンです。

そして、メラトニンが出る条件は何かというと、太陽が沈み、「暗くなる」ということなのです。ですから夜になっても寝られないという人は、このメラトニンが不足していることが原因で不眠になっているのです。そして、このメラトニンの材料となっているのが、実はセロトニンなのです。

うつ病の人やストレスの多い生活を送る人は、不眠を訴えることが多いのですが、これもセロトニン不足から説明ができます。つまり、日中にセロトニンがきちんとつくられていないと、夜になっても充分なメラトニンがつくれず不眠になってしまう、というわけです。

日中に身体を使ってよく遊んだ子供は、夜になるとぐっすり眠りますが、これも、日中身体を使ったことでセロトニンがたくさんつくられているからです。セロトニンとメラトニンの関係が明らかになる以前は、睡眠薬が処方されることが多かった不眠外来でも、最近では生活習慣を聞き、セロトニン不足が原因だと判断した場合は、薬に頼らず、「寝られなかったら、朝早くからウォーキングをしてください」と指導します。そうして日中にセロトニン神経を活性化させておけば、夜は電気を消しさえすればたっぷりメラトニンが出て安眠できるからです。

このメラトニン、きちんと分泌されると、実は安眠の他にもよいことがもう1つあるのです。それはアンチエイジングの効果です。メラトニンは抗酸化物質の1つで、夜ぐっすり眠らせてくれると同時に、日中活動している間に発生してしまった悪玉物質「活性酸素」を処理してくれるのです。日本やヨーロッパ諸国ではメラトニンは医薬品ですが、そのアンチエイジングの効果の高さから、アメリカではメラトニンがサプリメントとして販売されています。

メラトニンは化学的に合成することも可能ですが、やはり最も安全なのは、自分の脳がつくるメラトニンです。メラトニンの豊富な睡眠をとるために心がけていただきたいのは、まずは日中に太陽の光やリズム運動によってしっかりとセロトニン神経を活性化させておくこと。
そしてもう1つ。夜、太陽が沈んでいる間に睡眠をとるということです。徹夜で仕事をして朝になってから寝る人がいますが、これはメラトニンの分泌を考えるなら、最悪の睡眠です。なぜなら、太陽が昇ってからではいくら寝てもメラトニンは分泌されないからです。

つまり、体の疲れはとれるかもしれませんが、アンチエイジングの効果はまったくないということです。ですから、深夜勤務があり不規則な生活を余儀なくされている人や、徹夜仕事が続いている人は、手入れをしても肌荒れがなかなか治らないという人が多いのです。

しかし本当に怖いのは、その肌荒れの奥に潜んでいる活性酸素の存在です。すす私はよく活性酸素を、火を燃やしたときに出る「煤」に例えるのですが、メラトニンが出ない睡眠を続けるということは、体の中の煤掃除が行われず、ずっと煤が溜まっていくということです。煙突の中に煤が溜まると火を燃やしても不完全燃焼を起こしてしまうのと同じで、私たちの身体も活性酸素が溜まると、多くの場所で病気の原因となってしまいます。

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太陽とともに起き、日没とともに眠る。そうした太陽に合わせた規則正しい生活を送ることが、人間が健康で生きるために最もよい生活サイクルなのです。

「ちょっとしたエ夫」でリズム運動を習慣化する方法

これまではセロトニン神経を活性化させるものの1つ、「太陽の光」について詳しく見てきました。しかし、太陽に合わせた生活をすることがよいとわかっていても、現代社会の中で生きる私たちには、さまざまな事情でそれができないことも数多くあります。

また、太陽を充分に浴びたくても、冬になると雪が多く、なかなか太陽が姿を現してくれない地域に住む人もいます。仕事で1日中パソコンと向かい合っているので、セロトニン神経がダメージを受けやすいという人もいるでしょう。
どんな環境にも負けず、日々セロトニン神経を活性化させるためには、太陽に合わひけつせた規則正しい生活を心がけるとともに、セロトニン神経を高めるもう1つの秘訣、「リズム運動」を行う習慣を身につけることが必要です。

たとえ太陽の光を浴びる環境でなくとも、リズム運動を取り入れるだけでストレスは解消され、生活は大きく変わります。リズム運動にはさまざまなものがありますので、ぜひ自分の生活に合ったものを選び、取り入れてほしいと思います。

リズム運動というのは、「一定のリズムを刻みながら身体を動かすこと」なので、人間は、生まれてから死ぬまでずっと、意識をしなくても何らかのかたちで「リズム運動」を行っているといえます。たとえば、産声とともに始まる「呼吸」は、人間が最初に行うリズム運動です。お乳を吸うのも、泣き続けるのも、赤ちゃんにとっては立派なリズム運動です。そして離乳食を食べるようになると、食べものをかむ「阻囁」のリズム運動も加わります。また、ハイハイや歩くことができるようになると、リズム運動の幅はぐっと広がっていきます。

リズム運動は、成長に伴いさらにその種類を増やしていきます。ウォーキング、ジョギング、マラソン、サイクリング、水泳、エアロビクス、スクワット、ダンス等々。リズム運動は一定のリズムを身体が刻みさえすればよいのですから、激しさは必要ありません。

もちろん、座禅に用いられる腹筋を使って、ゆっくりとしたリズムで行う腹式呼吸も、立派なリズム運動です。同様にヨガや太極拳、お経を上げたり念仏を唱えることも呼吸を意識して行うものなので、立派なリズム運動といえます。

たたちょっとユニークなものとしては、ガムをかむことや、太鼓を叩くことも一定のリズムで行えば、リズム運動となり、ちゃんとセロトニン神経を活性化できるのです。セロトニン神経を活性化させるという点では、激しい運動の方がより効果が高いというようなことはありません。ウォーキングもマラソンも、同じようにセロトニン神経を活性化させるので、無理に激しい運動をする必要はないのです。むしろセロトニン神経を鍛えるためのトレーニングでは、無理は禁物です。疲労してしまうとかえって効果が低くなってしまうからです。

幼稚園の園児を対象に、運動とセロトニン神経の活性度について、さまざまなデータを取っていますが、その中にとても興味深いデータがあります。それは、同じセロトニントレーニングを行っても、遠足の翌日はトレーニングをしたことによってかえってセロトニンの数値が下がってしまう子供が多いというものです。

見た目には、園児たちは普段と変わらず元気に運動しているように見えたのですが、やはり身体には前日の遠足による疲労が蓄積されていたのでしょう。それほど大きな下がり幅ではありませんでしたが、平均値でおよそ10~20% 下がってしまったのです。

リズム運動は、最低5分間行えば、脳の中でセロトニン神経が活性化し、セロトニンの放出量が増えることがわかっています。たったの5分です。ですから疲れているときはあまり無理をせず、その日の体調に合わせて5~30分の間で、時間を調節しながら行うようにしてください。リズム運動を行う時間は、長くても30分程度で充分です。長くやったからといって、それだけ多くセロトニンが出るわけではありません。

大切なのは「長時間」行うことではなく、「長期間」続けて行うことです。セロトニン神経は、毎日の生活の中前で、少しずつその機能を低下させてしまいます。ストレスに勝つことのできない人間にとって、それは仕方のないことです。でも、だからこそ毎日セロトニン神経を活性化させて、日々ストレスで下がってしまう初期値をもとに戻すことが大切なのです。

リズム運動自体は何を行ってもいいので、自分で楽しみながら続けられるものを選んでください。これなら一生続けられる、そういうものを選ぶのが理想です。もちろんいくつかの運動を組み合わせて行うというのもいい方法です。

たとえばジョギングを行うと決めていても、雨が降るといきなりテンションが下がってしまいます。そんなときは晴れたらジョギング、雨だったら室内で呼吸法と決めておくと、毎日続けることができます。病気で安静が必要な人や、身体が不自由な人も、呼吸法やガムかみ、歌を歌うなどのリズム運動であれば生活に取り入れることが可能です。

普段の生活の中で行っていることを、ちょっと意識してセロトニン神経を活性化させるために行う。たとえば、朝の通勤時にだらだらと惰性で歩いていたのを、リズムを刻むという意識で歩けば、それだけでも効果はあるのです。ぜひみなさんも、日々の生活の中で、工夫してみてください。

リズム運動の効果を「最大」まで高める方法がある

では、いくつか代表的なリズム運動を取り上げ、どのようなことを意識して行えばセロトニン神経が活性化するのか、具体的に見ていきましょう。

呼吸法

呼吸は生まれてから死ぬまで、絶えず行われているものです。この、普段は無意識に行っている呼吸も、ちょっと意識して行えば、セロトニン神経の活性化につながります。普投の呼吸をトレーニングに変える最大のポイントは、腹筋の収縮を意識して行うということです。

お腹を出したり引っ込めたりして行う呼吸を「腹式呼吸」といいますが、実はこの腹式呼吸には、横隔膜呼吸と腹筋呼吸の2種類があります。実はこの2つ、見た目には似ているのですが、身体の中で使われている筋肉は全然違うのです。
もちろん、その効果も違います。そして、セロトニン神経に活性化をもたらす呼吸法は、腹筋を使って行う腹筋呼吸の方なのです。では、両者の呼吸は何が違うのでしょうか。

まず横隔膜呼吸の方から見てみましょう。「お腹を使って呼吸をしてください」と言ったとき、ほとんどの人は、まずお腹を膨らませながら息を大きく吸い込みます。この、初めに「吸気」から入るのが、横隔膜呼吸です。普段のフラットな状態から、横隔膜を意識的に下げることで肺の容量を広げ、呼吸の量を増やすのが横隔膜呼吸なのです。

横隔膜呼吸で意識するのは吸気、つまり息を吸うときです。めいっばい息を吸い込めば、吐くことは意識しなくても自然と行われます。これに対し腹筋呼吸法は、まずフラットな状態から「呼気」、つまり息を吐くことから始めます。吐いて吐いて、もうこれ以上は吐けないというところまで息を吐くと、吸気は意識しなくても自然と行われます。これが腹筋呼吸法です。例えるなら、バネを引き伸ばしてバッと手を離すようにして行う呼吸が横隔膜呼吸。バネをこれ以上縮まないというところまで圧縮してバッと手を離すように行う呼吸が腹筋呼吸ということです。座禅でもヨガでも太極拳でも、リズム運動に用いられている呼吸法は、すべてこの「呼気」を意識して行う腹筋呼吸法です。意識するのは、「まず呼気から行うこと」それだけなので、慣れてしまえば簡単にできます。この呼吸法は、ウォーキングやサイクリングなど、日常のあらゆる場面に用いることができるので、呼吸法の基本としてしっかりと身につけていただきたいと思います。

座禅

座禅は、深い腹筋呼吸に瞑想を組み合わせたものです。お寺などで行う場合には、足の組み方や、姿勢を維持すること、雑念の祓い方などの指導も行われますが、セロトニン神経活性化のために個人で行う場合には、あまりいろいろなことを意識せず、まずは腹筋呼吸を徹底的に極めるという意識で行うことをおすすめします。

姿勢を気にしても、セロトニン神経が弱っている人は、抗重力筋も弱っているので姿勢を維持することができないからです。姿勢は、セロトニン神経が活性化されれば、抗重力筋が強化され自然とよくなっていきます。座禅のときに行う腹筋呼吸は、無理のない程度で、でもできるだけ吐ききることを意識し、ゆっくりとしたテンポで行うようにします。

禅宗の僧侶など座禅に熟達した人の中には、30秒かけて息を吐き、10秒以上かけて息を吸うという驚異的にゆっくりとした腹筋呼吸ができる人もいますが、これは何十年もの修行の結果です。一般的には12秒ぐらいかけて吐き、8秒ぐらいかけて吸うという1呼吸20秒程度の呼吸を目指すのがいいでしょう。

もちろん最初は20秒で1呼吸も難しいと思います。初めのうちは無理をせず、苦しくならない範囲で、できるだけゆっくりとした腹筋呼吸を心がけるようにしてください。もう1つ、座禅を行う際に注意してほしいのは、目を閉じないことです。座禅では「半眼」といって目を閉じずに行うよう指導されますが、これは脳の働きからみても大きな意味があることなのです。

目を閉じると、心身ともにリラックスしたときに現れる脳波「α波」が出るのですが、これは、α 彼の中でも8~10ヘルツというゆっくりとしたものです。でも、目を開けたまま座禅を行っていると、5分を過ぎたあたりから、目を閉じたときとは異なるα 波が出てきます。これは10~13ヘルツという速いもので、りそうかいラックスと同時に脳が「爽快ですっきりした感覚」になったことを示すものです。実は、この速いα 披こそがクールな覚醒をもたらしているものだったのです。

ウォーキング・ジョギング

一定のリズムで歩けば、セロトニン神経はそれだけで活性化します。でも、あまりだらだら歩いてはいけません。セロトニン神経を活性化させるためには、時速5~6キロ程度のスピードで20~30分程度のウォーキングを行うのがいいでしょう。このとき、腹筋呼吸を併用すると、効果はさらに上がります。ウォーキングの場合は、歩くテンポに合わせることが必要なので、「ハッハッハッ」と腹筋を使いながら3回続けて呼気を行い、次いで「スー」と1回リズミカルに吸気を行うようにしてください。

基本的にはこの呼吸は鼻で行いますが、苦しい場合は口から吐いてもかまいません。でもその場合も吸気は鼻で行うようにしましょう。ジョギングの場合のスピードは、最初は時速八キロぐらい、慣れてきて物足りなくなったら10kgぐらいまでピッチを上げてもいいでしょう。ピッチが速くなると、呼吸量も多くなるので、ウォーキングのときの「3呼1吸式」を「2呼2二吸式」、つまり「ハッハッ、スースー」と、2回吐いて2回吸う呼吸にすると、リズムにも乗りながら楽に呼吸ができるようになります。

咀嚼

ものをかむことがリズム運動になるなんて、と思うかもしれませんが、これも意識して行えば、ちゃんとセロトニン神経を活性化させてくれます。朝ご飯を抜いた子供は、朝ご飯をきちんと食べた子供と比べて、午前中の授業に対する集中力が低いといいますが、これは朝ご飯を食べるときの岨噂によって、セロトニン神経を活性化させたか、させていないかの違いでもあるのです。

ガムも一定のリズムでかめば、セロトニン神経を活性化させることができるので、忙しい人にも手軽にできるリズム運動といえます。ただ、リズム運動は同時に言語脳を使ってしまうと効果が下がるので、あまりいろいろなことを考えながら行うのではなく、ある程度「かむこと」に集中して行った方が効果は高くなります。
楽しみながら気持ちよく食べると栄養吸収もアップする

言語脳とは、言葉をしゃべったり、本を読んだり文章を書いたりするときに働く場所です。テレビや映画を見るのも、言葉を聞き理解することが必要なので言語脳が働きます。ですから、リズム運動をするときは、こうしたことをしながら行うのは避けなければなりません。映画やテレビを見ながらのリズム運動はよくありませんが、リズミカルな音楽を聴きながら行うのは、集中力が増すので効果が高まります。

リズム運動は、上手に組み合わせると、相乗効果が望めます。たとえば、朝のさわやかな陽光の中でリズム運動を行ったり、ウォーキングに呼吸法を合わせたり、リズミカルな音楽を聴きながらジョギングをしたり。どれも単独で行うより高い効果が表れます。
上手に組み合わせて、無理なく楽しみながらストレスに強い身体づくりを工夫してみてください。

セロトニン神経の達人になれば「できる」人になれる

毎日ハードなスケジュールで忙しく仕事をしているのに、心身ともにいつも元気な人はいます。普通の人よりも多くのストレスを受けているはずなのに、そんな様子はまったく見せないのです。
芸能界で活躍している人、経済界で活躍している人、スポーツ選手。そういう人たちの生活習慣を聞くと、みんな何らかのかたちでリズム運動を上手に日常に取り入れていることがわかります。

80歳を過ぎても舞台で主役を務めている森光子さんが毎日スクワットを行っていることは有名ですが、あれも典型的なリズム運動の1つです。

故人ですが、楽壇の帝王と呼ばれた世界的な指揮者カラヤンは、指揮をする前に必ずヨガを行っていたといいます。会社の経営者やエグゼクティブと呼ばれるビジネスマン、政治家や医者など、ストレスの多い世界で活躍している人の多くも、朝ジョギングをしたりジムへ通っていたりします。中には座禅や瞑想を習慣にしているという人も珍しくはありません。こういう人たちに「お忙しいのに、よく続きますね」と言うと、ほとんどの人が「やっていると、調子がいいからね」と答えます。

セロトニン神経の活性化の恩恵を、彼らは自分の身体で実感しているのです。スポーツ選手は基本的に日々身体を動かしているので、セロトニン神経が活性化している人が多いのですが、その中でも飛び抜けてよい成績を残しているイチロー選手は、まさにセロトニンの達人といっても過言ではないと思います。イチロー選手を見ていると、守備につくまでのランニングや守備位置についてからの身体の動かし方など、絶えずリズミカルに動いています。

どんな世界でも第一線で活躍している人は、人前では言わなくても、みんな自分なりのやり方でリズム運動を生活の中に取り入れているということです。セロトニンを高める秘訣は「太陽の光」と「リズム運動」。決して難しいことではありませんので、ぜひ今からでも実践してみてください。それだけで、身体的ストレス、さらには人間特有の「脳ストレス」にも確実に強くなれるのです。

快眠ぐっすり酵素「セロトアルファ」

5つの厳選された成分が凝縮されており「幸せ成分」が安眠効果を発揮します。

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成分表

原材料名
発酵大麦エキス末(発酵大麦エキス、デキストリン)、焼成カルシウム、 ビフィズス菌(乳成分を含む)
PMC、加工澱粉、グリシン、トレハロース、ステアリン酸カルシウム、フェルラ酸、パントテン酸カルシウム、着色料(カラメル)、二酸化ケイ素
内容量
34.6g【1粒重量385mg(1粒内容量300mg)×90粒】
保存方法
直射日光を避け、風通しがよく湿気の少ない場所に保管してください
発売元
アイシー製薬株式会社
東京都大田区蒲田5-29-3 酒巻ビル9F
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栄養成分表示
栄養成分表示【3粒(1.15g)あたり】
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ストレスを感じているのは脳

まずはストレスに負ける

私たちは、日々さまざまなストレスを感じながら生活しています。言い換えれば、生きている限り、ストレスから逃れることは不可能です。サラリーマンもフリーターも、主婦も学生も、お年寄りも、みんなそれぞれの生活の中でストレスを感じています。ある人にストレスになっていることでもある人にはストレスでない場合もあります。

これに例外はありません。ストレスというと、私たちはすぐに仕事のプレッシャーや人間関係のトラブルなどかゆ精神的なものをイメージしがちですが、痛みや痺み、寝不足や疲労、空腹やのどの渇き、暑さや寒さなどもストレスです。

私たちの脳は、心身が不快に感じることはすべて、「ストレス」と認識するのです。つまり、毎日仕事が忙しい人や悩みを抱えている人はもちろん、ストレスとは無縁のようなお気楽な人も、誰もが羨むような幸せで満ち足りた生活を送っている人も、人はみな生きているだけで、何らかのストレスを感じているということです。

では、なくすことができない、逃れることができないこのストレスと、私たちはどのようにつきあっていけばいいのでしょう。この間題に、世界で最初に取り組んだのが、仏教の開祖であるお釈迦さまでした。お釈迦さまは、生きることは「苦」だと言って、悟りをひらきました。

この「苦」を文字通り「苦しみ」と解釈してしまうと、人生が苦しいだけのものに思えて厭世的な気分になってしまいますが、「苦」とは、「ストレス」のことだと考ええんせいれば、納得がいきます。人生は「苦=ストレス」だと知ったお釈迦さまは、出家してさまざまな苦行を行っています。

そして六年後、苦行で人は救われないとして苦行をやめ、菩提樹の木の下で静かに座禅をし、悟りに至ります。でも、お釈迦さまはなぜ六年も苦行をしたのでしょう。私は、この六年間、お釈迦さまはストレスと徹底的に戦ったのではないかと思っています。自分の体を使った壮大な「ストレス実験」です。おそらく、自分の肉体を徹底的にいじめ抜くことで、人間に秘められたストレスを像を絶するようなストレスを味わうことで、ストレスに対する「免疫」をつけようと考えたのだと思います。

でも、残念ながら、結果は完敗でした。人間にそんな力はなかったのです。どんなに頑張っても、人はストレスに打ち勝つことはできない。これが六年間苦行を積んだお釈迦さまの結論だったのです。ただ、お釈迦さまのすばらしいところは、それだけでは決して終わらなかったことです。

実はこのとき、お釈迦さまはもう1つ、とても大切なことを悟ります。それは、どんな「苦=ストレス」も永遠には続かないということでした。仏教でいう「諸行無常」ですね。すべてのものは変化し変わらぬものは何もない、というのは、ストレスにも当てはまるのです。

たとえば、タンスの角に足の小指を引っかけたとき、その瞬間はとても激しい痛みを感じます。でも、その痛みは一瞬のもので、時間の経過とともに少しずつ軽減され、やがて消えていきます。いずれ消えてしまうものなら、無理にそれと戦うのではなく、ストレスにじっと寄り添って消えるのを待とう。これがお釈迦さまの到達した境地でした。

ずいぶん消極的だと思うかもしれませんが、これが六年間もストレスに真正面からしんし向き合った結論なのですから、私たちは実勢に受け止めなければなりません。ストレスを受けたときに、しっかりと対応できる人と押しっぶされてしまう人がいますが、その最も大きな違いは、「ストレスには勝てない」と気づくこと、たったそれだけなのです。そして、それに気づいた人こそ、ストレスを「受け流す」ことのできる人となるのです。

海底数千メートルにおけるストレス

当時、スキューバダイビングをしていた頃、とある研究の一環としてテストダイバーの役をかって出たのです。模擬実験とはいえ、内容は海底3000 メートルの場所で3週間過ごすというものでした。そしてこの体験が、私にとって、大きな転機となったのです。

生きていくことは「苦= ストレス」であり、ストレスに対してはただそれが消えるまでじっと寄り添って消えるのを待つことしかできません。厳しい現実ですが、この現実を受け入れないと、ストレスとの上手なつきあいは始まらないと考えるようになりました。

これは、何も私がお釈迦さまのことだけから判断しているわけではありません。実は、私自身も、ストレスに押しっぶされるような日々を経験して気づいたことでした。その中でも、海底3000メートルで過ごした3週間は、今も忘れられません。

3週間といっても実際に海底にいたのは1週間で、海底まで行くのに1日、そして海底から地上に戻るまでに2週間かかります。これは地上まで一気に戻ってしまうと、水圧の違いから「潜水病」になってしまうからです。海底の暮らしは1週間とはいえ、想像していたよりもずっと過酷で、とても人が住めるような環境ではありませんでした。

室温が1度がるだけで汗がびっしょりになり、室温が1度下がるだけで今度は震えるほど寒くなるのです。食事は地上で料理したものを「圧縮」してタンクから運ばれましたが、何を食べても「歯にくっつくような感じ」がして、とても食べた気持ちにはなれません。

吸っている空気も地上のものとは明らかに異なっているため、少なからず、確実に、たストレスは溜まっていきました。1間がたち、2週間、3週間と、本当に長い時間が過ぎ、ようやく地上に出たときには、心身は疲弊しきって鼻血が出ていることにも気づかない始末でした。

海底に潜ったときには、「人間は海底というストレスフルな環境にも住めるかもしれない」という可能性を信じていたのですが、そんな思いはすぐに消え去りました。そして、「人間は人間でしかない。ストレスには勝てないし、いくらストレスを経験しても、免疫力がつくわけでもない」ということを痛感したのです。その経験があるからこそ、今はストレスを受け流して生きているように思います。みなさんの中には「ストレスには勝てない」という現実を実感できない人もいるかもしれません。しかし、わざわざストレスに立ち向かうことは、決しておすすめいたしません。負けるだけです。私は40年近くたった今でも、あのときのことを思い出してしまいますが、そのたびごとに思うのは、「死ななくてよかった」、ただそれだけです。

ラットは死を選ぶ

ストレスはやがて消えると言いましたが、現実には、身近な人との人間関係や職場のストレス、病気による痛みなど、なかなか消えてくれないストレスもたくさんあります。もし、ストレスが長く続いたら、生き物はどうなってしまうのでしょう。

20世紀の初頭、この間題に取り組んだハンス・セリエというカナダの免疫学者がいます。彼はラットを使った実験で、さまざまなストレスが生き物にどのような反応を引き起こすのか検証しました。
彼がこの実験を行ったのは、まだ「ストレス」という言葉が認知される以前のことでした。実はストレスという言葉は、セリエの提唱した「ストレス学説」によって初めて認知されるようになったものなのです。

彼はもともとホルモンの研究をしていたのですが、その中で、生物が刺激の種警問わず、不快な刺激を受け続けると、ある共通のホルモンを出すことを発見しました。

実は、このホルモンこそ、現在「ストレスホルモン」といわれているものなのです。ストレスを感じると、生体はストレスホルモンを出します。では、ストレスが繰り返され(あるいは長時間続き)、ストレスホルモンがずっと出続けたら、その生き物はどうなってしまうのでしょう。セリエはラットにさまざまなストレスを加え続けることで、それを調べたのです。

  1. 雪の降る寒い冬の夜に、ラットを入れたゲージを屋上に置きっばなしにする。
  2. 一定の間隔でラットに電気刺激を与え続ける。
  3. ラットを強制的に泳がせ続ける。
  4. 板にラットを磔にしておく

結果はどれも同じでした。ラットは死んでしまうのです。ストレスが与えられた当初は、どの実験でもラットは激しく抵抗します。何とかしてストレス状態から脱しようとするのです。しかし、どんなに抵抗してももがいても、ストレス状態から脱することができないとわかると、ラットはやがて何もしなくなります。

何もせずに、ただじっとストレスに耐えるのです。強制的にラットを泳がせ続ける実験では、最初ラットは出口を求めて必死に泳ぎます。ときには水の中に潜ってまで出口を探します。でも、しばらくすると泳ぐのをやめ、エネルギーの消耗を防ぐため、じつと動かなくなります。

そうして、状況が好転し、逃げられるようになるのをじっと待ち続けるのです。もちろん、この状態でもストレスから解放されれば助かりますが、ストレスが続けば、やがて死に至ります。調べてみると、ストレスが加わってから死に至るまでの間に、実験の種類にかかわらず、すべてのラット体に、「胃潰瘍」「胸腺・リンパ腺の萎縮による免疫力の低下」「副腎皮質の肥大」というまったく同じ3つの反応が生じていたことがわかりました。

これが後に「セリエのストレス三兆候」としてまとめられる、生体がストレスを受けたときに生じるストレス反応です。この三兆候は、人間においてもまったく同じことが起きることがわかっています。よくストレスで胃潰瘍になるといわれますが、ストレスが続けばどんな健康的な人でもそうなるのです。

心と体でストレスの流れは異なる

セリエの実験によって、ストレス状態が長期間続くと、生体はやがて死んでしまうことがわかりました。そしてその際、「胃潰瘍」「胸腺・リンパ腺の萎縮による免疫力の低下」「副腎皮質の肥大」といった、さまざまなダメージを身体にもたらすこともわかりました。

では、なぜストレス状態が続くと、副腎皮質が膨れてストレスホルモンが出るのでしょう。調べていくと、脳の下垂体というところから、ACTHという副腎皮質を刺激するホルモンが出ていることがわかりました。

では、なぜ下垂体がそうしたホルモンを出すのでしょうか。身体の中で起きる反応を遡って調べていくことで、ストレスによって身体が病気になっていくメカニズムが次第に明らかになっていきました。今では身体的ストレスが加わったとき、身体の中のどこでどのような反応が起き、最終的にどういった病気になるのかという「ストレス経路」がわかっています。

これにより、今までは曖昧だったストレスと痛気の関係が明らかになりました。身体が最も強く反応する身体的なストレスは「痛み」です。痛みは「情報」として、身体の中に張りめぐらされた神経を通って、まず脳の視床、そこから、大脳皮質あるいは大脳辺緑系を介して、ストレス中枢である視床下部・室傍核に行きます。

情報を受け取った室傍核は、CRHという副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモンを出します。ちょっとややこしい名称ですが、「副腎皮質を刺激するホルモン」を出せと命令するホルモンを出すということです。このホルモンが下垂体を刺激し、ACTHという副腎皮質刺激ホルモンを出します。そして、このホルモンが副腎皮質を刺激することによって、副腎皮質の肥大とストレスホルモン「コルチゾール」の分泌が起きるのです。

この副腎皮質ホルモン「コルチゾール」の大量分泌が、高血圧や糖尿病を引き起こし、病気をつくり出していくのです。一方で、副腎皮質ホルモンというのは、薬にも用いられる物質です。皮膚科で火傷やアトピー性皮膚炎の治療に用いられる「ステロイド」も副腎皮質ホルモンです。

つまり、副腎皮質ホルモンは、身体には必要な物質なのですが、出すぎると高血圧や糖尿病、骨をもろくするなど、かえって身体に悪影響を及ぼしてしまうのです。身体的ストレスが、こうした「ストレス経路」をたどることによって、私たちの身体に病気をもたらすことがわかりました。

しかし、ストレスによって生じるのは、もちろん身体の病気だけではありません、ストレスによって精神的な病気が起きることも私たちは経験的に知っています。特に最近、社会問題にまで発展するほど急増している「うつ病」などは、ストレスがその大きな原因の1つだといわれています。

しかし、ストレスホルモンが出る経路では、うつ痛の発生を説明することはできません。多くの研究家が最初は、ACTHやコルチゾールといったホルモンが、うつ病に関係する神経に何らかの影響を与えているのではないかと予測して調べを続けていたのですが、いくら調べても、この予測を裏付けるデータは出てきませんでした。

いったい、ストレスはどのような経路をたどって、うつ病を引き起こしているのでしょう。これは近年になってわかってきたことですが、実はストレスが精神に影響を与える経路は、身体への影響経路とはまったく別にあったのです。

スタートが脳の中の視床下部であることは同じですが、精神への経路はそこから下垂体へは行かず、直接脳の中の脳幹部分、具体的に言えば「縫線核」という部分に影響を与えていたのです。つまりストレス経路には、視床下部から下垂体へ行く「身体的ストレス経路」と、視床下部から脳幹・縫線核へ行く「精神的ストレス経路」という2つのストレス経路があったのです。

脳幹というのは、脳の中でも最も深い部分に位置し、人間の生命維持にかかわる働きを担っている部分です。その脳幹のほぼ真ん中に位置する縫線核は、うつ病やパニック障害など、精神的な病気と深いかかわりを持つ「セロトニン」という神経伝達物質を出すセロトニン神経のある場所です。

視床下部から縫線核にストレス情報が伝わることによって、セロトニン 神経の働きが阻害されます。そしてうつ病やパニック障害といった精神的な病気が生じていたことがわかったのです。セロトニン神経というのは、セロトニンという物質を使って情報を伝達している神経ということです。

これこそがストレスに立ち向かうための「特効薬」なのです。ここではセロトニン神経の働きが弱くなると、精神的な病気を引き起こしてしまう、ということだけ覚えておいてください。ここで注目すべき点は、精神的ストレスの正体は、「神経伝達物質を通して脳が感じるストレス」だったということです。

精神的ストレスの経路がわかったことにより、そのストレスを抑制するための機能もわかってきたのです。それでも「精神的ストレス」という名称のために、どんなストレスなのか具体的によくわからない、治療法も人それぞれではないか、という印象が少なからずあるように思います。

そのため、私は副腎皮質を経由する身体的ストレスに対して、精神的ストレスのことを「脳ストレス」と呼んでいます。精神的ストレスは、脳が感じるストレスであるということ、そしてそのストレスをコントロールする機能が確かにあるということを、少しでも理解してほしいという思いから命名いたしました。「脳ストレス」という言葉が、もしみなさんの口から自然に出てくるようになれば、それは、精神的なストレスを解消するための第一歩を踏み出しているということに他なりません。

動物もうつになる

身体的ストレスについてはお話ししましたが、もう1一つのストレス、「脳ストレス(精神的ストレス)」に対しては、私たちの身体はいったいどのような反応をするのでしょうか。実は、脳ストレスに対しても、生体は、身体的ストレスとまったく同じ影響を受けることがわかっています。

つまり、身体的ストレスでいうところの「高血圧」や「糖尿病」といった症状が表れるのです。このことがわかったのも、セリエによるラットの実験のおかげでした。よく精神的なストレスは、人間だけが感じるもののようにいわれていますが、それは違います。ラットのような小動物も、精神的なストレスは感じているのです。

それは、次のような実験によって立証されました。まず、2匹のラットをそれぞれ別々のゲージに入れ、ゲージを並べた状態で、片方のラットだけに電気刺激という身体的ストレスを与えます。つまり、身体的ストレスを与えられるのは、

一方のラットだけで、もう一方のラットは、身体的刺激は何も受けません。でも、すぐ隣のゲージでは、電気刺激を受けているラットが悲鳴を上げ、脱糞するという大変な状態を繰り広げています。もう一方のラットは、それをずっと見せられ、カ悲鳴を聞かされ、漏らした糞尿の臭いを喚がされ続けるのです。

人間だったら、これは耐えられない精神的ストレスです。それは、ラットも同じでした。つまり、何も身体的刺激を受けていなくても、そうした環境に置かれただけで、ラットは実際に身体的ストレスを加えられたときとまったく同じように、ストレス経路が動き出していたのです。ただし、この実験でわかったのは、動物も精神的ストレスを感じ、それによって身体的ストレスを感じたときと同じように病気になり、ひどいときには死に至ることもあるということだけです。精神的ストレス回路については、脳の働きを調べることによって最近わかってきたことなので、脳の構造の違う動物を使った実験では、きちんと証明することはできなも感じられるものの他に、「脳を発達させた人間だからこそ感じるストレス」というものもあるので簡単には証明できないのです。

それに、言で精神的ストレスと言っても、人間の場合は、ラットのような動物にも感じられるものの他に、「脳を発達させた人間だからこそ感じるストレス」というものもあるので簡単には証明できないのです。ただ、身体的、精神的、いずれのストレスでも、それが肉体的、精神的病気の引き金になっている、このことは疑いようのない事実なのです。

人間の2大ストレスは「依存症」と「逆恨み」

人間ならではのストレスとは、いったいどのようなものがあるのでしょうか。私は、特徴的なものとして次の2つがあると考えています。

  1. 快が得られなくなることによって生じるストレス
  2. 自分が相手のためにと思ってしていることが、正当に評価されないことによって生じるストレス

まず1つ目の「快が得られなくなるストレス」ですが、これは人間にとってよくあるストレスであり、かつ、とても大きなストレスです。たとえば、パチンコで大当たりして玉がたくさん出るのは、気持ちのいいものです。つまり、「快」ですね。ところが、どんな大当たりでも玉が永遠に出続けることはありません。いずれ玉は出なくなります。すると、それまで大きな快を得ていただけに、玉が出ないことが「不快」つまり「ストレス」になってしまうのです。思い出してください。

お釈迦さまは、ストレスは永遠に続かないと「無常」を曹ました。しかし、それは同時に「快」も永遠には続かないということでもあるのです。ストレスの場合は、なくなれば楽になるのでまだいいのですが、快の場合は、なくなるとそれが「ストレス(不快)」になってしまいます。

アルコールという「快」を得すぎたために、アルコールがないとイライラしてしまう人1 。そのストレスの大きさは計り知れません。性や暴力の快に没頭する人もいれば、インターネットやゲーム、買い物に没頭する人もよく耳にします。
アルコール依存症についてはこちら。

これが厄介なのです。なぜ厄介かというと、失った快を求める気持ちが強くなりすぎると、「依存症」という病気になってしまうからです。失った快に執着しすぎ、心のコントロールが効かなくなった状態、それが「依存症」です。そして、これは誰もがなりうることなのです。

なぜ?私をほめてくれないの?

もう1つの「自分が相手のためにと思ってしていることが、正当に評価されないことによって生じるストレス」もなかなか厄介なストレスです。なぜなら、これは自分1人では解決するのが難しいストレスだからです。しかも、程度の差こそあれ、このストレスはほとんどの人が経験しているものです。

たとえば、毎日家族のことを思って家事をしているのに、「ありがとう」の一言も言ってもらえない主婦。上司やクライアントのために徹夜までして仕事をしたのに、評価してもらえなかったサラリーマン。また、一生懸命勉強しているのに、もっともっとと言われてしまう受験生。恋人のことを考えて選んだプレゼントを、気に入って3 6もらえなかった彼(彼女)みんなこの「正当に評価されない」というス.トレスを感じています。ただ、自己評価と他者評価の間にギャップが生じるのは、ある意味仕方のないことなのです。

必ずしも自分が悪いわけでも、相手が悪いわけでもありません。ここをはき違えることで、つい、「逆恨み」のような言い争いに発展してしまうのです。だからこそ、解決することが難しいのでしょう。私は、お釈迦さまは偉大なストレス研究家だと思っているのですが、そのお釈迦さまは、弟子に「苦は3つある」と教えています。

それは、

  1. 痛みのような単純な苦
  2. 快が満たされない苦
  3. 他者に認められない苦

の3つ。まさに身体的ストレスと、人間ならではの脳ストレスの2つを見事に指摘していたのです。でも、お釈迦さまがすでにこうしたストレスを指摘していたということは、考えてみれば、人間は当時から約2500年もの間ずっと、同じストレスに悩まされ、結局何1つ克服できずにいるということでもあるのです。

怒りっぽい人は朝より夜にキレる

最近、電車の中でキレる人を見かけます。少し前までは、電車の中で暴れるのは酔っぱらいか、普段から暴力的な人と相場が決まっていました。でも、最近は違ってきています。しかも、普段はとてもおとなしく、礼儀正しい人なのに、ついカツとしてキレてしまったという人がとても多いのです。

受けたストレスをコントロールすることができず、感情を爆発させ、普段では決してしないような行動をとってしまう、これがいわゆる「キレる」という状態です。この「キレる」という行為、原因を簡単に言うと「ストレス」です。「そんなの当たり前じゃないかJ と思う人もいかかもしれません。

かし脳科学的にいえば、少し話は違います。ストレスがかかったとき、普段なら脳はそのときの神経経路を別のものに切り換えて、暴走を防ぐのですが、その「切り換え」ができなくなって暴走してしまう。まさに脳ストレスの蓄積による症状です。
これがキレた状態といえます。

では、普段なら切り換えられる脳のスイッチが、なぜ切り換えられなくなってしまうのでしょう。キレてしまった人の多くは、「自分でもよくわからないのですが、ついカッとなって…」「あのときに限って、どうにもがまんができなくて…と言います。

つまり、普段はそれぐらいのことではカッとならないし、がまんもしているということです。では、なぜ普段していることができなくなるのか?そこには何か原因があるはずです。私は、これはまさに「セロトニン神経」の機能低下が原因だと考えています。

セロトニンは脳に静かな覚醒をもたらします。これは別の言い方をすれば「平常心」をもたらすということでもあります。平常心を保つというのは、脳の切り換えがスムーズに行われ、どこも暴走も興奮もしていない状態のまま、スムーズに働いているということです。

さらに、セロトニン神経の機能が低下すると、その生き物は残虐な行動をとることも動物実験で明らかになっています。

これはラットを使った実験ですが、セロトニン神経を破壊したラットとマウスを一っのゲージに入れておくと、普通、ラットはそんなこと決してしないのですが、マウスをかみ殺して食べるという残虐行為を見せるのです。

そして、その残虐になってしまったラットに、セロトニンを補給すると、いつものおとなしいラットに戻り、残虐性はウソのように消えてしまうのです。このラットの症例をそのまま人間に当てはめることはできませんが、セロトニン神経の機能が低下すると、感情や精神状態を普段の冷静な状態にキープすることが難しくなることは充分に推測できます。

そしてこのことは、キレる人が朝の満貞電車よりも、夜の帰宅時に多いということからも証明されます。

通勤列車における単純な身体的ストレスでいえば、帰宅ラッシュよりも朝の出勤ラッシュの方が、時間帯が集中する分ハードです。にもかかわらず、朝からキレる人はほとんどいません。これは朝の方が、セロトニン神経が活性化しているからです。

1日社会で生活すれば、上司に怒られたり、同僚からグチを開かされたりと、さまざまなストレスによってセロトニン神経は弱ります。その弱り切ったセロトニン神経ではストレスに耐えきれず、負けてしまう。それが夜の方が「キレる」人が多い理由だと思います。

ストレスに対抗する手段はひとつではない

「ストレスには勝てない」

ストレスが続けば生き物は死んでしまうのですから、間違いなくそれは真実です。

でも、それだけでは人はあまりにも無力だと思いませんか。ストレス実験で動かずに、ただじっとしているラットと何ら変わりありません。私たちは本当に何も対抗策はないのでしょうか。結論から言いましょう。私たちに対抗策はあります。
しかも、1つではありません。ストレスに対して有効な方法を、私たちは自分の状況に沿って選択できるのです。

たとえば、ストレス研究の先駆者であるお釈迦さまは、1つの方法を私たちに教えてくれています。お釈迦さまが教えてくれた「苦=ストレス」への対抗策、それは「座禅」を組むことです。6六年間も苦行をしたのに悟りに至れなかったお釈迦さまが、座禅によって悟りに至ったのは、脳科学的にみると決して偶然ではないのです。実は座禅によって、お釈迦さまは、脳のとても「大切な部分」を活性化させていたのです。

座禅というとただ座って瞑想しているだけのように思われるかもしれません。

もちろん慧首とても有意義な活動の1つです。しかし、座禅で最も大切なのは「呼吸」です。腹式のゆっくりとした呼吸を意識して規則正しく繰り返す、それが、座禅における呼吸法なのです。実は、こうしたゆっくりとした腹式呼吸を妄時間続けると、脳の「大切な部分」に変化が表れるのです。その変化が表れる場所というのが、うつ病やパニック障害と深いかかわりを持つ「セロトニン神経」です。

一定のリズムを刻む運動を「リズム運動」といいます。腹式呼吸も、腹筋を一定のリズムで動かすので、リズム運動の1つです。

セロトニン神経は、そうしたリズム運動によって活性化するというおもしろい特徴を持った神経なのです。セロトニン神経が活性化するというのはどういうことかというと、具体的に言えば、セロトニンという神経伝達物質の量が増えるということです。このセロトニンには、「クールな覚醒」といって、脳の状態を、落ち着いた状態でありながら非常にクリアにするという効果があります。お釈迦さまが座禅によって悟りに至ったのも、こうした静かな覚醒のおかげと考えられます。

また、セロトニン神経が活性化することによって、うつ病やパニック障害といった精神的な病気になりにくくなるだけでなく、物理的な痛みにも強くなることがわかっています。その上、精神的に「クールな覚醒」がもたらされれば、ストレスに対しても冷静な判断や対処ができるようになるのです。

それでも、それだけでは、ストレスに対して絶対的な強さを持つ対抗策だとはいえません。どんなにセロトニン神経が活性化していても、強いストレスが襲ってくれば、ストレス経路は動き出し、私たちの身体も心も病んでしまうからです。

セロトニン神経の活性化は、強いて言うなら、「ストレスを上手に受け流すよう心身の準備を整える」ということだと思います。しかし、整えるだけでも、セロトニン神経を普段から活性化させていれば、多少のストレスなどスルッと受け流すことができるのですから、するとしないとでは大違いです。

ただ、この機能は、ラットなど他の動物にも基本的には備わっている能力です。この機能を充分に発揮させ、セロトニン神経を高めることができれば、私たち人間だけでなく、生物はかなりのストレスを受け流すことができるようになります。

おそらく、この能力は、生き物が進化する過程で獲得した、とても基本的な能力だからなのでしょう。でも、思い出してください。人間には他の動物にはない「精神的ストレス」があるのです。他の動物より感じるストレスが多いのに、できるのは同じセロトニン神経の活性化だけというのは、少し不公平な気がしませんか。

実は、これは私もセロトニン神経を研究している過程で気がついたのですが、人間にはもうひとつ、他の動物にはない「抗ストレス能力」が備わっていたのです。しかもそれは爆発的な効果を持つ、秘密兵器のようなものでした。

それは「涙」です。涙なんて他の動物でも流すじゃないか、と思うかもしれませんが、涙には3つの種類があり、その中には人間にしか流すことのできない「涙」があるのです。そして、それこそが、脳の中のストレスを-気に洗い流してくれる秘密兵器だったのです。

その、人間にしか流せない涙とは、「情動の涙」と呼ばれる涙です。類人猿の中でも高い知能を持つチンパンジーは、人間と99% の遺伝子が一致するといわれていますが、そのチンパンジーですら「情動の涙」を流すことはできません。
嬉しいとき、悲しいとき、感動したとき、そして他人に同情したとき、人は涙を流します。私たちは何気なく泣いていますが、これは生物学的にみると、人間にしかできないとてもすごいことなのです。



大声出してストレス発散「叫びの壷」

脳の発達=ストレスのはじまり

では、なぜ人間だけが「情動の涙」を流せるのでしょう。人間だけが情動の涙を流せるのは、他の動物にはない脳を人間が持っているからです。それは、「前頭前野」と呼ばれる脳です。前頭前野というのは、脳の中ではとても新しい部分で、人間への進化の過程で生まれた脳です。

他にも前頭前野を持つ動物はいるのですが、人間ほど発達した前頭前野を持っている生き物はいません。だからこそ、涙を流せるのは人間だけなのです。先ほど、人間だけが感じる精神的なストレスが二つあることをご紹介しました。

「快が得られなくなるストレス」と「他人に認められないストレス」です。人間だけがこの2つをストレスと感じるのも、実はこのストレスが前垂削野の発達と関係しているからなのです。つまり人間は、前頭前野という脳の領域を発達させたことによって、他の生き物では感じないストレスを感じるようになってしまった。だが、それと同時に、他の動物にはないとても効果の高い「抗ストレス能力」もまた、手にしたということです。

私たちは、涙を流した後は気持ちがスッキリとし、精神的にも楽になることを経験的に知っています。でも、それがなぜなのかは長い間わかっていませんでした。つまり、私たちはこれまで、人間特有のストレスは受け続けながら、人間特有の抗ストレス能力にはまったく気づかずに生きてきたのです。

実は、泣くとスッキリするのは、脳の中で「ストレス状態からリラックス状態へ」という、決定的な「スイッチング」が行われているからなのです。人間にこうした能力が備わっているというのは、とても大きな福音です。

私たちの生活は、多くのストレスに満ちています。そして、繰り返しますが、そのストレスに勝つことは、できません。それは、私たちの身体がそういうふうにできているのですから仕方のないことです。また、「脳ストレス」という意識をいつまでも持たないでいると、「心のストレス」という得体の知れないストレスに悩み続けることになりかねません。

しかし、意識さえすれば、私たち人間には、優れた2つの抗ストレス能力が備わっているのです。もちろん、それが脳ストレスを「消す」ためのキーワードになります。1つは、セロトニン神経を活性化させることで得られる「ストレスを受け流す力」。

もう1つは、人間にしか流せない情動の涙を流すことによって得られる、「ストレスをリラックスに変えるスイッチング能力」です。この2つの能力を上手に活用しながら、ストレスと寄り添って生きていくこと。それこそが、人間がその人生を幸せに歩むための、最もよい方法だと私は考えています。