発見の旅は地獄の旅
大航海時代の探検家で、コロンブスと並んで壷によく知られているのがマゼランです。マゼランの船団は、はじめての西回り世界一周旅の成功で有名ですが、その航海は「地獄への旅」といわれるはどに悲惨なものでした。
南アメリカ大陸の最南端マゼラン海峡などの難所で船は何度も難破し、上陸地の住民とは争いの連続でした。マゼラン自身も、航海の途中、フィリピン諸島のセブ島で、こうした争いで負傷し、命を落としました。しかし、本当に乗組員が地獄の苦しみと恐れたのは、荒海でも異国の民でもなく、劣悪な携帯食糧が原因の壊血病などの病魔でした。
その悲惨さは、3年後に帰還できたのが出航時の280人のうち、わずかに35人であったことからも想像できます。当時の携帯食糧の実情からすれば、「発見の冒険行」は「地獄への旅」というのが普通だったのです。
無事に帰還できたのはカブスタのおかげ
そんな時代に、ロシア人初の世界一周に挑戦したクルーゼンシュテルンの探検隊は、3年後にはほとんど全員が、無事に港に帰ることができました。
彼の船団は、ほかの探検隊とどこが違っていたのでしょうか。その理由を当時のロシアとイギリスの新聞が次のように指摘しています。「探検の成功の秘密。それは植物油とカプスタである」この事実は帰国後のクルーゼンシュテルンの講演でも明らかにされました。
カブスタとは、ロシアの伝統的保存食である酢漬けのキャベツ、いわゆるザウワークラウトのことです。ほかの探検隊が、もっぱら塩漬けの野菜を携帯したのに、彼はカプスタの樽を貴重な船倉のスペースに一樽でも多く積み込もうと努力したのです。彼は、それま調でのいくつかの探検行の経験からカプスタさえあれば、病気にもならず旅を続けることができることを確信していたのです。
野菜のビタミンCを保護するお酢の働き
現在の豊富な食生活ではあまり聞かなくなりましたが、かつてはビタミンCの欠乏症状として有名でした。ビタミンCは、主に生の野菜や果物から摂取されていますが、熱に弱く、不安定で保存法や調理法が制限される微量栄養素です。
また、体内での生成、蓄積ができないので毎日の摂取が必要とされています。この大切で、壊れやすいビタミンCを保護し、その働きを十分に引きだすのに最適なパートナーがお酢なのです。もちろん、酢漬け野菜と同じく、塩漬けの野菜、いわゆる漬物も食品を保存し、ビタミンCを保護するための有効な加工法です。話を戻して、大航海時代ではキャベツは貴重なビタミンCの補給源であり、しかも比較的保存のきく野菜として知られていました。
野菜が不足する冬の間に、塩漬けキャベツとキャベツのピクルスは、たいへんありがたい食品でした。また、キャベツには肉の成分を中和する働きもあり、今でもドイツなどの肉食の盛んな国でたくさん消費されています。
当然、マゼランなども塩漬けのキャベツや塩漬け肉などを船に積み込んで旅立ったのですが、これらの携帯食は熱帯の気候と長期の旅で、食べられなくなるほど塩がきつくなるか、ウジ虫がわくほどドロドロに溶けてしまいました。保存をよくするための過剰な塩分は、動脈硬化や高血圧などの健康障害にもつながったことでしょう。
それに比べて酢漬けのキャベツは、塩の害もなく、その優れた殺菌力から保存状態もよく、ビタミンCなどの栄養成分が守られるほか、酢自体にもアミノ酸などの栄養分があるなど、よいことずくめだったわけです。
もちろん、当時は合成酢はまだ開発されていませんでしたから、ブドウ酒を原料とした天然醸造酢が使われていたので、その昔なクエン酸などが、船員の疲労回喝健康維持に大いに責献したことでしょう。
1+1が2以上になる相乗効果
お酢は、ビタミンCなどの野菜の成分だけでなく、大豆などの穀類、豆類の成分のほか、ワカメやコンプなどの海藻類や植物油とも素晴らしい相乗効果を発揮します。
もう、お気づきですね。これらの相乗効果をうまく利用した伝統的食品がいくつも思い浮かぶはずです。優れた急が組み合わされて、2倍以上の効果を発揮しているのです。
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