薬物治療の最終目標は、単に血圧を下げることではありません。高血圧症による脳、心臓、腎臓など、重要臓器の深刻な合併症を防ぐことになります。
半世紀前までは、高血圧症は治療をすべきではないとされていました。必須の高血圧と呼ばれていたのです。
つまり、腎硬化症のような病状では、腎臓が萎縮して動脈硬化が進んでいるため、血圧を下げると血流が低下し、病気を悪化させると信じられていたのです。しかし、最近では高血圧症は「一次性高血圧」と二次性高血圧症」に分類されています。
高血圧症のほとんど(9割程度)は一次性高血圧です。二次性高血圧の占める割合は、ごくわずかなのです。では、高血圧症は管理治療し、降圧すべきだ、という考え方の大逆転が起きたのはいつごろからなのでしょうか。
一次性高血圧の治療を受けている人では、治療されていない人にくらべて合併症の発症率が低下することが確認されたのは、1970年のことです。医学的かつ科学的に間違いのない証拠が示されたのです。
脳卒中、心筋梗塞、心不全などの発症例数は統計学的に差があり、利尿薬群ではよい結果が得られたのです。他方、ある街の住民を丸ごと長期間観察し、健康診断による調査も行われてきました。
有名なのは、米国ボストン市近郊で行われたフラミンガム試験です。この試験はすでに40 年以上、いまだ調査は続いています。
高血圧症についてみると、年齢補正をしたうえで、高血圧症の人は正常血圧の人にくらべて脳卒中、心臓発作、末梢動脈疾患、心不全などの合併症が数倍以上になることが示されています。わが国でも同様の調査が行われ、福岡市の近郊にある久山町の試験がよく知られています。
やはり、数十年の経過を追った調査結果をみると、安静時の血圧が130/85mmHG以下の人にくらべ、血圧値が高い人ほど脳卒中の頻度が上がることを示しました。
さらに多くの調査から明らかになったのは、高血圧症の血圧の高さばかりでなく、その他の危険因子の有無が合併症の発症に重要な意味をもつことです。このことからも薬物治療による合併症を抑える治療が重要ということです。
- 高齢(65歳以上)
- 喫煙習慣
- 脂質の異常
- 肥満
- メタポリック症候群
- 心臓血管病の遺伝
- 内臓の臓器障害
- 眼底に高血圧性網膜症の所見がある
日本高血圧学会の改訂されたガイドラインでは、血圧の高さとその他の危険因子を組み合わせて合併症のリスクを層別しています。
低リスク、中等リスク、高リスクの3段階に分けて薬剤を使った治療の必要性やその時期を判断する目安にしています。