間違いだらけの睡眠情報 不眠症は贅沢病 虚弱体質の人には漢方薬

たくさん食べる人ほど惰眠のとりこになる

不眠症で困っている、ときくと、実にうらやましいと思ってしまいます。なにしろ、事業に、講演に、テレビ、ラジオの出演に、そして執筆にと、目のまわるような毎日をすごしている多忙な人にとって、眠れないということは、むしろ「天の助け」とさえ思えるからです。

毎日、人の3倍は働いているような忙しい人は、すこしでも睡眠時間を切りつめて仕事をこなしているのです。だから、ときどき、眠る必要がなかったらどれほどいいだろう、と思うこともあります。しかし、そんなことを言おうのなら、実際に不眠症で苦しんでいる人から、「眠れないつらさなど知りもしないのに、なんということをいうか!」と、お叱りを受けるかもしれません。

「このままいくと気が狂ってしまうのではないか? 」と、眠れなくてノイローゼ一歩寸前の人だって、世の中にはいることでしょう。不眠症の苦しみは、おそらく想像以上のものだと想像しています。しかし、気持ちはわかるのですが、そんなに悩む必要はけっしてない、声を大きく言いたいです。

これまでに、不眠症で死んだり発狂したり、また、不眠症のせいで身体を悪くして入院したという詰もほとんど聞きません。
そこで、あなたの気持ちをさらに楽にさせるために、驚くべき慢性不眠症の例をあげてみましょう。

奈良県の天理市に住んでいたSさん(調査当時、66歳)は、40代の半ばごろから急に食欲がなくなり、ほぼ20年にわたって、ほとんど食事というものをしなかったそうです。といって病気になったわけではなく、健康状態はきわめて良好でした。

Sさは、食欲の減退と歩調を合わせるように、睡眠時間も徐々に短くなり、十数年のあいだ、1日の睡眠時間はわずか5~6分でだったそうです。この事実は、一般医学常識では考えられませんが、十分に理解できます。

睡眠というのは、大脳だけではなく、内臓が疲労することによって起こる現象です。内臓を疲労させるいちばんの要因が、胃腸の消化活動です。つまり、食べれば食べるほど内臓を疲れさせ、それを回復するために睡眠が必要になるのです。

だから、たくさん食べる人ほど、必要以上に眠らなければいけないのです。したがって、短時間の睡眠ですませたければ、なるべく食べないようにしなくてはいけないのです。Sさんは、食事らしい食事をほとんどしなかったからこそ、ほんの数分の睡眠ですごせたのです。

横になって目を閉じるだけで疲労は回復できる

「布団にはいってもなかなか寝つけない」「早く眠ろうと意識すればするほど、ますます目がさえてくる」と、寝つきの悪さを訴える人はたくさんいます。これはもう、軽度の不眠症と言えるでしょう。

「眠らなくてはいけない。明日の仕事にさしつかえる」という強い自己暗示が潜在意識下で見え隠れするために、眠るどころか、逆に、睡眠のリズムからどんどん遠ざかってしまいます。こうした人は、「夜中の3時すぎまで、ずっと時計の音をきいていたよ」「冷蔵庫のモーター音が、明け方まで耳について眠れなかった」というのですが、それでは寝不足の真っ赤な目でフラフラしているかといえば、けっしてそんなことはないのです。

当然です。本人はずっと目をつぶって横になっていたのだから、眠れなかったとはいえ、大脳も肉体も十分に休息しているのです。それにしても、「人間は7~8時間眠らなければ疲労を回復できない」「睡眠不足は健康によくないし、仕事の能率も落ちる」といったような誤った常識が世の中に浸透しているのは、実に困ったものです。
こんな固定観念に縛られることによって、どれだけ多くの有能な人間がムダな時間をつぶしていることでしょう。

不眠ノイローゼはこうして治る

「がん患者1人に、がんノイローゼ100人」などととよくいわれます。不眠症もこれと同じようなものなのです。

つまり、「不眠症1人に、不眠ノイローゼ100人」といえるのです。

不眠症で悩んで病院に足を運ぶ人はかなりの数ですが、医師にいわせると、ほんとうの不眠症というのはその中でもひじょうに数少ないのです。そもそも、不眠症は病気ではない、という医師もいるほどです。なぜなら、「不眠症」という病名オど存在しないからです。

眠れない、と訴えて医師のもとを訪れると、医師は便宜上、その人を不眠症と診断して、いろいろと相談に応じたり診察したりします。しかし、それだけの話なのです。一般に、不眠症という場合と、単なる不眠ノイローゼという場合では、やはり画然とした開きがあるのです。

不眠症と呼ぶのは、「寝床にはいっても、朝までほとんど眠れない」と訴える人に村してであり、不眠ノイローゼというのは、「寝つきが悪くて2~3時間しか眠れない」「夜中にしょっちゅう目が覚めて熟睡できない」といった訴えをする人のことです。このような、単なる不眠ノイローゼなら恐れることはまったくありません。

まず、そうした不眠ノイローゼのケースを紹介しましょう。

某大手鉄鋼会社につとめる40歳の男性 は一流私立大学出身で、これまでエリートコースを難なく進み、同期組のトップを切って、30代後半にして人事課長の要職につきましたた。ところが、この課長昇進にともなって、この男性に初めての試練が襲ったのです。
まず、これまでより責任が倍増し、さらに、部下の人心把握、部長への気づかい、そして同期への配慮と、神経を消耗させる問題がつぎつぎに生じました。

大企業の人事機構は、年々、複雑化してきています。人事課長という要職にある男性のストレスはたいへんなものでした。しかも、男性は、神経質なタイプで、仕事にも対人関係にも完壁を期する人でした。男性は課長について以来、めっきり寝つきが悪くなってしまいました。

会社で起こったさまざまな問題が、閉じたマブタの裏でぐるぐるとまわりつづけました。身体はぐったりかなり疲れているのに、頭の芯が熱く、目がさえてしまうのです。部下に放ったちょっと不用意な一言、書類作成上のごく小さなミス、自分をとがめるような部長の一瞬の目つきなど。気にかかることがつぎつぎと頭に浮かんでくるのです。

眠りにつくのは、いつも明け方近くなってから、という状態が毎晩のようにつづいていましたた。眠ってもすぐに目が覚めたり、うとうとして夢ばかり見たりで、熟睡した日がありません。こうなると、りっばな不眠ノイローゼです。
元来が神経質な人だから、眠ろうとしても交感神経の興奮がおさまらず、神経の覚醒状態がずっとつづいてしまうのです。適度にのんきな人なら、就寝時には副交感神経がうまく働くように神経作用のスイッチが切り換わるのに、男性のようなタイプの人はそれができないのです。

このタイプの不眠症を治すには、眠るときに血液を腹部に集中させると効果的です。というのも、血液が腹部に集められると副交感神経が活動をはじめ、頭部に集められると交感神経が活動をはじめるからです。

このようなタイプは、この血液の流れが逆になっているから、夜眠れなくなるのです。血液は、押す、つく、たたく、打つなどの刺激を受けると、その場所に急激に集まるようにできています。

たとえば、打ち身や捻挫をしたときには、その場所に血液が集中し、ケガを一刻も早く治そうとするのです。そこで、この原理を応用した、不眠症をピタッと治す方法を具体的に紹介します。

まず、ヘソの真裏に枕をおき、仰向けに大の字に寝ます。思いきり腰をあげ、息を大きく吐きながら、腰をストンと落とします。これを20回つづけます。こうすると、頭部に集まっていた血液が腹部に集められ、ぐっすりと眠ることができます。

この「血液集中法」を覚えてからは、不眠症で悩むことがなくなったことはいうまでもありません。

不眠症に効果絶大の漢方薬

ところで、いくら眠れないからといって、睡眠薬(催眠薬)や精神安定剤などに頼るのは、健康面でも精神面でも恐ろしいこと、といわざるをえません。もし、服用する場合は、医者の注意に従うべきことはいうまでもないのですが、くれぐれも用心しなければいけません。

短時間睡眠を実践すれば、不眠症や不眠ノイローゼはたちどころに治ってしまうのです。そうはいっても、なにかいい薬はないかと真剣に悩んでいる方もいるでしょう。そういう方には、比較的安全な漢方薬を紹介しましょう。
もちろん、漢方薬は安全だといっても、使い方を誤るとやはり危険です。素人考えではなく、必ず専門医や薬局で相談しましょう。

漢方というと、民間薬であるゲンノショウコやハブ茶、ドクダミ、オオバコ、センブリ、サフランの類まで漢方薬だと思っている人が多いのですが、これらは単味(一種類の薬草のこと)で使われるものだから漢方薬ではないので間違えないようにしましょう。

漢方薬は、これらの生薬(天然の植物性または動物性の薬。前者を一般に生薬、後者を動物生薬という) を何種類か混合させてつくったものです。民間薬と漢方薬との根本的な違いは、その生薬の用い方にあるといえる。それらを列記すると、つぎのようになります。

  1. 一般に漢方薬は何種類かの生薬を混合させて用いるが、民間薬は単味で用いる。
  2. 漢方薬は必ずその人の体質、すなわち虚性体質、実性体質に分類して、その人にもっとも合致した薬を選ぶ。
  3. 民間薬はまったく体質など考えない。病気の症状が出たら、いつ用いてもいい。病気の進行状態などに合わせることもない。

もうすこしくわしく解説すると、漢方薬は漢方的な方法を用いて治療するということです。その人の体質はもちろん、いま病気がどんな状況にあって、この状況に合う薬はいったいなにかを選択します。その選択を誤ると、治療はうまくいきません。

また、漢方薬には、「気」剤といって心の状態を調整してくれる薬はあるが、西洋医学のような睡眠薬とか精神安定剤とかいうものはありません。東洋医学では、とくにこの漢方薬のことを「湯液治療」と呼んでいます。

湯とは「お湯」のこと、液は液体だから、湯液治療とは煎じて飲むことです。しかし、煎じ薬では飲みにくいし、めんどうだということで、最近は漢方薬も錠剤にして売られています。

薬局(漢方薬取り扱い店) で売っているものは、全部といっていいくらい錠剤になっています。

さて、病気の症状だけを見て治療することを、対症療法という。カゼをひいたからカゼ薬を飲む、これが対症療法です。しかし、漢方では、カゼの原因は弱い身体にあるととらえて、病気を根本から除去する根本治療を行ないます。

つまり、漢方薬の狙いは、体質改善をはかることにあるのです。体質を改善するには、現代医学のように身体の部分だけを観察するのではなく、人間を全体的に見ることが必須です。病んでいる人を1人の人間として扱わねばなりません。

それでは、不眠症を治すのに効果がある漢方薬を紹介します。しかし、何度もいうようですが、漢方薬も現代の医薬品も薬であることに変わりはなく、使用方法を誤ると危険もあります。あくまでも、自分の体質に合った薬を使うことが大切ですから、どういう薬が自分に合うかは、専門家の相談を仰ぐことをおすすめします。

虚弱体質で気の弱い人にはこれが最適

虚弱体質で気の弱い人というのは、体質的に虚性体質といわれます。やせて青白く、なで肩、指は細く、声に力がないのが特徴です。顔の形は面長か逆三角形です。虚性体質の人はアスピリンなどで発汗しにくくなるか、その反村に発汗過多となり、胃を悪くすることがあります。こういう人が不眠症にかかったら、つぎの薬がおすすめです。
柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)
虚弱体質の人の中でも、とくに弱い人向きの薬です。食欲がなく、みぞおちから脇腹にかけて、苦痛を訴えます。のぼせの傾向があり、口唇が乾燥して、尿量が少ないです。上胸部でドキドキと心臓の動悸がし、血行がすぐれず、急いで歩くと息切れします。
夜、寝苦しくなり、とくに悪夢におびやかされるという人に効きます。
また、手足が冷えやすく、下痢や軟便の人に用います。

脈にも腹にも力がなく、腹部の胃弱を訴えている人に合います。とにかく、とても弱い人向きの薬と思えばいいでしょう。

胃アトニーや胃下垂、神経症、貧血症に効果があります。この薬は、不眠症以外にもいろいろつかえて便利でです。とくに流感に効きます。メーカーによって多少、使用方法が異なるのですが、効能書きをよく読んでつかえば絶対に間違いないでしょう。この薬を最初に紹介したのは、もっとも安全で危険性のない薬だからです。
白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)
朝鮮人参が代表的ですが、この人参湯は、それとはすこし異なります。人参のほかに、甘草、沭、乾姜が同量ずつ入っていますとくに、胃の悪い人に抜群の効果があります。やはり虚弱体質者向きで、顔色がすぐれず、貧血ぎみで、手足の冷える人。胃部が冷たく感じられたり、食欲のない人に用います。口にはうすいツバがたまり、また、大便はつねに軟便か下痢便で、小便はうすく、尿の量が多い人。吐き気、めまい、頭重を訴え、腹に力がなく弱い人に合います。ただし、高血圧の人は使用禁止です。
補中益気湯(ほちゅうえっきとう)
やはり虚弱体質の人向きの薬ですが、これは疲労回復に用います。きわめて応用範囲が広く、強壮効果がある。身体がだるい。疲労しやすい。食欲がない。手足がだるく、微熱が出る。頭痛、寝汗、視力減退、胸部の近くで動悸がする。息切れがする。言葉が出にくい。夏やせがひどい。痔疾、脱肛などの症状に効きます。虚弱な人で不眠を訴える人向きの薬として、とくに効果があります。
桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)
竜骨というのは、古世紀に生きていた恐竜や爬虫類、牛、馬、鹿などの動物の化石のこと。中国に多く産する。心を鎮め、胸部の動悸に効果があります。また、強壮にも効きます。不眠症にも用いられます。牡蠣というのは、カキの貝がらのこと。これも心を鎮め、胸部の動惇を鎮め、強壮に用いられます。のどの渇きも治してくれます。ふだん虚弱な人で、すぐ神経が興奮したり、ひどく疲れやすい人に向いています。性的神経衰弱、精力減退にもよく効きます。高血圧、頭髪脱毛症、夜尿症にも効果があります。

丈夫でガツチリした人向きの薬

実性体質といって、身体つきがガッチリして骨太の人に合った薬は以下のとおりです。この体質の人は、たくましい筋肉質で、その筋肉も硬く丈夫、肩がいかっていて、頼もしい体格をしています。声は大きく、血色もよく、指が太く、腹に力もあり、ヘソが深く大きいのです。目には力があり、しっかり見開いています。顔の形は丸形か四角形です。とにかく線が太いのが特長です。アスピリンを使うと発汗しやすく、胃を悪くしないのが特長です。こういう人が不眠症にかかったら、つぎの薬がおすすめです。

  1. 大柴胡湯(だいさいことう)
    この薬は、年齢的には壮年から老年期初期で、丈夫な体格をした、ずんぐりタイプの人に向いています。血圧が高く、嘔吐、むかつきがあり、食欲不振、胃がつかえて胸苦しいという人に合います。とくにこの薬は、胸と脇のところが硬く張っている人に用いられます。
  2. 黄連解毒湯(おうれんげどくとう)
    やはり丈夫な人向きで、炎症、充血をなくし、精神的不安を取り除く効果があります。また、もろもろの熱性の病気の経過中に用いると効果があります。病人は、炎症、充血による心の不安定、煩悶を訴え、尿が赤くなり、または出血をきたし、脈は沈んでいるが力のある人に用います。
  3. 三黄瀉心湯(さんおうしゃしんとう)
    この薬もやはり筋肉体質の人向きで、のぼせたり、顔面紅潮、気分の不安定などがあり、便秘し、脈に力のある人に用います。胸部圧迫や腹直筋の弾力がない人、つまり、腹が張って苦しいところがない人に用います。弾力があり、底力のある腹をした人によく、炎症、充血を治療し、鎮静の効果があります。胃を丈夫にします。

この薬は、脳出血や脳の鬱血、喀血、吐血、子宮出血、痔出血などに用いられ、切り傷、その他の出血で驚きと不安のあるときに用いると効果があります。気分を鎮め、止血の効果を発揮します。この薬は、神経症や不眠症のみならず、かなり応用範囲の広い薬です。

ただ、不眠症に用いる場合は、必ず専門家の指導を受けることが大切です。

以上、虚性体質と実性体質の人に分けて、それぞれ星の数ほどある漢方薬の中からごく一部を紹介しました。漢方薬の大家が一般的にすすめている代表的な薬です。とくに、実性体質の人向きの大柴胡湯(だいさいことう)と、虚性体質の人向きの柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)は応用の範囲が広く、よく用いられているポピュラーなものです。

漢方薬を服用するとき、もし自分が実性か虚性かわからなかったら、いちおう、虚性と判断してつかうことが一般的です。身体の丈夫な実性体質の人が虚性体質向きの薬を飲んでも、問題はないが、身体の弱い虚性体質の人が実性体質向きの薬を飲むことは避けなければいけません。

漢方薬は、その人の体質に一致したら、まったく関係のないところまで調子がよくなってきます。この点が現代医薬と違う点であり、おもしろいところでもあります。
たとえば、ふだん虚弱な体質の人が熱性の風邪をひいたときに、柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)をあたえたら、単に風邪が治っただけでなく顔色もよくなり、心が明るくなっているのを見て驚いたことがあります。このように、漢方薬は、体質の改善に大いに効果を発揮してくれます。